→短編・あなたに選ばせてあげる。
こんにちは、お久しぶり。
そんなに嫌そうな顔をしないで。
まぁ、そうよね。私とは二度と会いたくないし、思い出したくもないって言ってたものね。
でも、せっかくこうして会えたのだから、ちょっとお話しましょうよ。今はどんな暮らしを?
へぇ? 仕事も家庭もすべて上手くいってるのね?
それは良かったわ。とても幸せそうで私も嬉しいわ。
私は今も独り身よ。えぇ、あなたと別れて以来、誰とも。はっきり言って不幸続きよ。いろんなものを失ったわ。例えば、この足先。事故よ、事故。いつ頃かって? ずいぶんと好奇心旺盛ねぇ。そうそう、知ってる? 幻肢痛ってほんとにあるのよ。
あら? あなたの娘さんも事故にあったの? 半年前? 奇跡的に助かった? 嬉しそうね、すっかりお父さんの顔だわ。それに貫禄もついてきた。仕事で良いポストを得たのね。
あなたは今では名のある会社の重役さん。
私は事業を人手に渡したわ。無職よ。昔と立場が逆転ね。
同情してくれるの? でもね、そんなお気遣いは無用よ。私は望んで不幸を選んだの。
私ね、あの日からあなたを呪うことにしたの。
私の幸せを全てあなたにスライドすることにしたの。
どうして笑うの? 私、おかしなことを言ったかしら? 願うなら不幸だろうって?
バカね、そんなものを望んでどうするの? お互いの負の感情を一致させて何が楽しいのよ。
私は私の生涯をかけて、あなたが幸福であるように呪ってるのよ。
あなたの奇跡的な幸せは私の呪いの上にあるの。忘れたくてたまらない女の一生涯があなたの生涯にスライドしてるのよ。どう? ゾクゾクしない?
ふざけるな、ですって? 野蛮な言葉はよして。おぉ、怖い。
いいわよ、あなたに選ばせてあげる。
私の呪いを止めるか、止めないか。
そうそう、答え忘れてたわ。私の足ね、半年前の事故でなくしたのよ。
あらあら、顔が真っ青ね。
これまでずっと続いていたあなたの幸せは、いったいどこから来たのかしらね。
よく考えて、選んでちょうだいね。
テーマ; これまでずっと
7/12/2024, 4:11:26 PM