「たぶん、もう会うことはないんじゃないかな。」
彼との会話で覚えているのはこれだけだ。
ある夏の日。2人で居酒屋に行く事になった。
久々の再会に少しぎこちなさを感じつつもそれでも楽しく時間を過ごしていた。
「私、結婚するんだ。」
これを伝えたときの彼の顔を私は覚えていない。
なんだか少し寂しそうな、けど祝福の言葉をくれたような。お酒が入って曖昧な頭だった私にはそのときの彼の心情など尚のこと知るよしもない。
そこからきっといろんな話をしたのだと思う。
楽しい気分のまま駅の改札へ向かう道の夜風の気持ちよさをよく覚えている。
ケラケラしてる私はゆったりふわふわ縁石の上を歩く。
「また数年後くらいに会えたらいいね!そのとき私は赤ちゃん連れてたりして(笑)」
そうして彼はポツリとこう言った。
「たぶん、もう会うことはないんじゃないかな。」
そんなことあるかなぁ?結婚して友達に会えないなんてことあるのだろうか。
声に出した言葉もそうかなぁ?と上の空のような返事だった覚えがある。
それくらい私には今も未来も曖昧に揺らめいていた。
数年後、ふと風の便りで彼が結婚したことを知った。そのとき思い出したのは最後に会ったあの日。
あの日彼は私に別れを告げたのだろう。何も考えていない、何もわかっていない私を置いて。
今ならわかる。このまま時々会える関係が心地よかった私と、そうではなかった彼との歪み。
もう会うことの無い彼の姿は静止画のように動かない。
私のなかで人生の中の1枚となってしまったのだ。
きっと彼にとっての私もそうなってしまったことだろう。
「君と最後に会った日」
遠い昔、深緑の板面に相合傘を描いた。
今でも思い出せる書き慣れた自分の名前と跡を残したくなくて薄く弱々しく書かれた相手の名前。
大好きです。叶いますように。と願ったあの日の傘は急いで消したのと同じようにあっという間に叶うことのなかった思い出になった。
今、また描くなら。
私は誰の名前を書くのだろう。
「相合傘」
名前を決めた6月の終わり
もうすぐ君と出会った夏がくる
あの日、献身と忠誠を選んだ自分へ
談話室で大切な出会いが待ち構えていますよ。
「1年前」 HPMA
『いつか、あじさいの花を送り合おうね』
そう約束したのは少し前のこと。
ついに私もあじさいの種を買えるようになり、育ててみたものの鉢植えの中にいるのははっきりとした色味のオレンジ。
私の理想とはかけはなれた姿にすこし落胆しつつも、見かけることのないオレンジのあじさいをじっとみつめる。
そういえば、オレンジのあじさいの花言葉ってなんだろう?
最近読んでいるマグルの世界の植物たちの図鑑にはあじさいのページもあったが、そこにはオレンジ色のあじさいの記載はなく花の色それぞれにあるという花言葉も青や白といったものしか載っていない。
魔法界の突然変異で生まれた色なのだろうか。
それとも私の育て方が下手………?
……まぁそれはそれで。よくよくみたら元気な色でいいじゃん。プラスに考えるのは私のいいところだ。
それに、無いんなら付ければいい。私が花言葉を。
そうなるとやっぱり約束した相手と関連した感じにするのがいいな。デザインもどんな風にアレンジしようか。きっとなんでも喜んでくれるだろうけど、ちょっとひねりたいのが私のいいところその2。
色々と思案しながら私はプレゼントするフラワーアレンジメントを作りに植物店へと向かった。
「あじさい」HPMA
私には好きなものも嫌いなものもたくさんある。
あれもこれも嫌いであれもこれも好き。
到底数えきれないくらいだけど確かなのは、
そんな私も、やっぱり大切な人には好きなものがたくさんあって欲しいと思ってるということ。
ーーーー幼馴染みが微妙な顔をした。
前からこの話題になると少し困ったような顔をするからなるべく避けるようにしていたけれど、もう四年生なろうというのに彼は入学してから一度も実家に帰らず、長期休みはずっと寮で過ごしている。さすがに一度も帰らないのはそろそろ不味いんじゃないだろうか。そうと思えばどうにもこうにもその話題に触れずにはいられなかった。
「去年は寮に残ってたでしょ?今年は実家に帰るの?」
「…どうしようかな。別に帰ってやりたい用事もないし…」
衝撃だった。
用事がない…!?実家に用事がない!?
実家なんて私にとったらパラダイスに等しいのにどうやら彼にとっては居心地の悪いところのようだ。
多くは語らないが、その語らなさが全てを物語っている。彼の実家では美味しいアップルパイとかキノコたっぷりカルボナーラとか出てこないのだろうか。
いっそ、私の家に引きずっていこうかね………
それもおおいにアリアリのアリだったけど、それはまたの機会にして今回は友の背中を押すことにしよう。
「じゃあ手紙、送るね!」
「え、いや、まだ帰るって決めた訳じゃ……」
「返事かいてくれないの?」
「そ、…そういう訳じゃないけど…」
「ふふ、よかった。じゃあ楽しみにしてるから!」
あれよあれよと彼が言いくるめられてしまうのはだいたいいつもの流れ。優しい幼馴染みは私の願いならいつだって叶えようとしてくれる。それなら私だって君の心の底の願いを叶えてあげたい。多少強引でも力になれるならなんだってする。
好きな場所は、好きなものは、多い方がいいってきまってるんだから。
ーーーーーーーーー
待ち遠しい長期休みはあっという間に訪れ、みんなそれぞれの帰路へと向かう。騒々しい学校や寮に静かな時間の訪れ…にはまだ少し私たちには早い。
「ちゃんと!家帰るんだよ!」
「わかってるよ(笑)気を付けて帰ってね」
「そちらも!忘れ物もしないように!」
「はいはい(笑)ところで切符は持ったのかい?」
「!!!!……………今持った。」
「(笑)(笑)じゃ、またね。休み明けに。」
「うん、休み明けに!」
少し不安げな表情に何か声をかけたかったけど。
詳しく事情をしらない私が何か言える言葉があるはずもなく。
「ぜったいてがみちょうだいねーーーーーー!!!!」
「わかってるよwwww」
いつものように振る舞うことが私の唯一出来ることだった。
(また、この学舎で会うとき君の笑顔が一層輝いていますように)
そう願って私は一足先に寮を後にした。
以下、手紙の内容を一部抜粋。
『今度、私の家に遊びに来てよ!ご馳走用意する~!何食べたい!?何嫌い!?何好き!?!?』
『課題終わらない、、なんならどこが範囲なのかもあやうい………タスケテェ』
『帰ってくるときお土産買ってきてね!みんな呼んでお土産パーティーしよ!』
『遊びたい~~~!ホウキかっ飛ばしてそっち行こうかな。名案だと思うんよ。罰則と退学のスリルも味わえる。けどここでひとつ問題。私、飛行術はE判定なの、、、』
「好き嫌い」HPMA side. T