古びた手記の一部から抜粋。

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私には好きなものも嫌いなものもたくさんある。
あれもこれも嫌いであれもこれも好き。
到底数えきれないくらいだけど確かなのは、

そんな私も、やっぱり大切な人には好きなものがたくさんあって欲しいと思ってるということ。










ーーーー幼馴染みが微妙な顔をした。



前からこの話題になると少し困ったような顔をするからなるべく避けるようにしていたけれど、もう四年生なろうというのに彼は入学してから一度も実家に帰らず、長期休みはずっと寮で過ごしている。さすがに一度も帰らないのはそろそろ不味いんじゃないだろうか。そうと思えばどうにもこうにもその話題に触れずにはいられなかった。



「去年は寮に残ってたでしょ?今年は実家に帰るの?」
「…どうしようかな。別に帰ってやりたい用事もないし…」


衝撃だった。
用事がない…!?実家に用事がない!?
実家なんて私にとったらパラダイスに等しいのにどうやら彼にとっては居心地の悪いところのようだ。
多くは語らないが、その語らなさが全てを物語っている。彼の実家では美味しいアップルパイとかキノコたっぷりカルボナーラとか出てこないのだろうか。
いっそ、私の家に引きずっていこうかね………
それもおおいにアリアリのアリだったけど、それはまたの機会にして今回は友の背中を押すことにしよう。


「じゃあ手紙、送るね!」
「え、いや、まだ帰るって決めた訳じゃ……」
「返事かいてくれないの?」
「そ、…そういう訳じゃないけど…」
「ふふ、よかった。じゃあ楽しみにしてるから!」


あれよあれよと彼が言いくるめられてしまうのはだいたいいつもの流れ。優しい幼馴染みは私の願いならいつだって叶えようとしてくれる。それなら私だって君の心の底の願いを叶えてあげたい。多少強引でも力になれるならなんだってする。

好きな場所は、好きなものは、多い方がいいってきまってるんだから。









ーーーーーーーーー

待ち遠しい長期休みはあっという間に訪れ、みんなそれぞれの帰路へと向かう。騒々しい学校や寮に静かな時間の訪れ…にはまだ少し私たちには早い。


「ちゃんと!家帰るんだよ!」
「わかってるよ(笑)気を付けて帰ってね」
「そちらも!忘れ物もしないように!」
「はいはい(笑)ところで切符は持ったのかい?」
「!!!!……………今持った。」
「(笑)(笑)じゃ、またね。休み明けに。」
「うん、休み明けに!」


少し不安げな表情に何か声をかけたかったけど。
詳しく事情をしらない私が何か言える言葉があるはずもなく。


「ぜったいてがみちょうだいねーーーーーー!!!!」
「わかってるよwwww」


いつものように振る舞うことが私の唯一出来ることだった。



(また、この学舎で会うとき君の笑顔が一層輝いていますように)

そう願って私は一足先に寮を後にした。












以下、手紙の内容を一部抜粋。


『今度、私の家に遊びに来てよ!ご馳走用意する~!何食べたい!?何嫌い!?何好き!?!?』


『課題終わらない、、なんならどこが範囲なのかもあやうい………タスケテェ』


『帰ってくるときお土産買ってきてね!みんな呼んでお土産パーティーしよ!』


『遊びたい~~~!ホウキかっ飛ばしてそっち行こうかな。名案だと思うんよ。罰則と退学のスリルも味わえる。けどここでひとつ問題。私、飛行術はE判定なの、、、』






「好き嫌い」HPMA  side. T

6/12/2024, 3:55:58 PM