Sasha

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7/27/2023, 12:14:18 AM

「あ、すいません…。」

俺は通行人を避けながら、交差点に落ちていたゴミを拾った。

誰かのためになるならば、と思って続けてきた習慣だが、中には不審者でも見るような、うろんな目で俺を眺める奴もいる。

近所のじいさんは、よく声をかけてくれるが、区の吸い殻パトロールの親父は、ライバルが出現したとでも思うのか、完全無視だ。

小学校の旗振りのオヤジも、俺を見て見ぬふりをする。

「何でそんなことしてるの?」と、明らかに不審の目を向けてくるやつもいる。

だが、俺の毎朝の働きのおかげで、カヤが生え放題だった都会の交差点は、すっかり綺麗になった。

いいことをして何が悪い!と俺は言いたい。善きことに不審な目を向ける奴は、魂レベルが低いんだと思っている。

【誰かのためになるならば】

7/26/2023, 2:23:36 AM

夫が帰る時間だ。私はため息をついた。

あなたに会えなくなって何日になるだろう。まるで何年も会ってないかのように思える。

この鳥かごのような環境に、手を差し伸べてくれた唯一の人。会いたいという思いだけが募っていく。

そんな私の気持ちにはおかまいなしに、日々の仕事は流れていく。

【鳥かご】

7/24/2023, 8:15:08 AM

つつじの花が咲いている。昔通った通学路には、ユスラウメも豊富に実っていた。

つつじの花の蜜もユスラウメも、長い通学路の空腹を満たしてくれるおやつだった。

酸っぱいイタドリや道に垂れ下がっている枇杷も、子どもには格好の獲物だ。私は何だって食べた。

喉が渇いたときに、水道水を飲ませてもらっていた鍛冶屋を覚えている。

中学生になると、自転車を使うことを覚え、道端の植物をむさぼることはなくなってしまった。

さらに高校生になると、小遣いを握りしめてお好み焼き屋や安いケーキ屋に出入りするようになる。

しかしお金のいらない道端のおやつの思い出は、今でも私の気持ちを豊かにさせる。


【花咲いて】

7/23/2023, 4:57:31 AM

もしもタイムマシンがあったなら、私は間違いなく、あの夏の日に行くだろう。

まだ家族がみんなで暮らしていて、誰も何ものでもなかった、あの夏に。

灼熱の太陽のもとで自転車を駆った、あの暑い暑い夏に。

ほんの半年後には、みんな離れ離れになってしまったけど。それでもあの夏だけは、一つになって駆け抜けた。

今なら、どんな未来を選ぶだろう。あの日の私は、今の自分より幸せになっていけるだろうか。

【もしもタイムマシンがあったなら】

7/22/2023, 3:02:20 AM

「ねえ、お昼何食べる?」

久しぶりのデートなのに、なかなか店が決まらない。業を煮やしたように君が尋ねる。

「今一番欲しいものってなんなのよ?」

「俺?俺はウナギかなあ…いま夏の土用だし。」

「え、土用丑の日ってやつ?」

「違うけど、土用だったらいつ食べても同じだよ。」

「へー、そうなんだ…。」

しまった、つい祖母の受け売りで、生活の知恵袋的なことを口走ってしまった。ずっと祖母に育てられたせいか、俺はどうも暦を気にしてしまう。友達にからかわれるわけだ。

久しぶりのデートで、何を話してるんだ俺は…。ちょっとした自己嫌悪に陥る。

しかし君は、そんなことはまったく気にならない様子で、信号待ちの暑い日差しを避けて、街路樹の陰にスッと身を隠した。涼しげな白い袖なしのブラウスが、愛らしい。

「あなたが食べたいんだったら、付き合うよ。ウナギ。」

「あ、ああ…。ありがとう!」

しまった、でも財布にいくら入っていたっけ?俺は最後の会計を脳内で再生した。確か5000円札はまだあったはず…。でも5000円でうな重2人食べられるお店あるのか?

俺は急に不安になって、ドギマギしながらスマホを取り出した。彼女もそれを見透かすように、木陰の中でスマホを操る。

「あ!なか卯なら、うな丼900円だよ!」

「え、マジ?!」

彼女のスマホを覗き込む。確かに、900円と書いてある。やった、1000円札が3枚残る…。俺はそんなみみっちいことを考えた。

そして、こんな頼りない自分と一緒にいてくれる彼女に感謝した。彼女なら、このままの俺を受け入れてくれるかもしれない。

ずっと2人でいたい…。そんなことを思いながら、信号を渡った。

【今一番欲しいもの】

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