今年のカレンダーも残り4枚だ。
大人になると1年が本当に早い。
光陰矢の如しというが、年々その矢が早くなっていく。最早、姿を捉えるのが難しい。
今こうしている間にも、空をかっ飛んでいく矢に問いたい。
「そんなに急いでどこへ行く?」
そう口に出そうとした瞬間、もう姿がない。
なんと早いことだろうか。
矢から答えは得られなかったが、飛んでいく姿は「時に身を任せて進むだけさ」と言っているように見えた。
見えなくなった後ろ姿に向かって更に問う。
「君の意思はないのかい?」
そう問うと「知らないものを知る為に行くのさ」という言葉がどこからか届いた。
なるほど、矢というのは好奇心が旺盛らしい。
楽しそうなら結構なことだ。
一方、「時」というのは不思議なものだ。
辛い時や何かを待っている時、意地悪なくらい時というのは過ぎない。そのくせ、楽しい時は秒で過ぎていく。
かと思えば、自然の中で過ごしている時などは、ゆっくりと流れてみせる。まるで、この世界を堪能して欲しいとでも言うように、優しく寄り添ってくる。
意地悪なのか、優しいのか。
それともそれを知覚する人側に要因があるのか──
凡人には計り知れない。
こうしている間にも、時は進んでいく。
残りのカレンダーもあっという間に過ぎていくのだろう。
その中に、沢山の良い思い出が出来れば幸いである。
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カレンダー
喪失感。
元々あったものが、何らかの原因で失った時に感じやすい感情。
自身にとって大切であればあるほど、その苦しみは強く出る。
裏を返せば、それほどまでに幸せであったという証でもある。
失わないとわからない苦しみがあるのだから、この世界はなかなかに意地悪だ。
喪失感に打ちひしがれるか、幸せな思い出として慈しむか。或いは別の感情を抱くか。
それを決める自由は、各人に委ねられている。
喪失感に出会ってしまった時は、沢山泣いて、自分の膿を出す。
そして、時薬の力を持って、大切な幸せな思い出へと昇華する。
人の数だけ方法はあるだろうが、こんな向き合い方もありではないだろうか。
努々勘違いしてならないのは、人を貶める為に心を燃やすこと。
考えられる限り、コレだけは良い未来に繋がらないと思われる。
心の本質に邪が入れば、そちらに引っ張られてしまう。
人の心は、案外強いようで弱く、また、脆い。
故に、心に何を置くかが鍵となってくる。
畢竟、全ては心の在りようなのだから。
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喪失感
世界に一つだけ。
ありきたりな解答になってしまうが、人が持つ個性にもそれは言えるだろう。
人というのはパズルのピースのようなもので、皆誰しも凸凹を持っている。
得意なこと、不得意なこと、それなりに出来てしまうこと…。容姿や性格にまで思考を広げていけば、ますますそれぞれの個性が際立っていく。
誰かと似ていても、必ずどこかしら似ていないところがある。
それこそがその人が持つ個性であり、世界に一つだけと尊ぶべきものなのかもしれない。
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世界に一つだけ
もう一つ短文を思いついたので、残しときますです。
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世界に一つだけのものは、
大切だから秘密。
そう言って、はにかむ君に
世界に一つだけの輝きを見つけた。
助手も帰った夜の研究室。
検査結果の入力をしていると、一通のメールが届いた。
送り主は、本社の総務部からだ。
件名には「研究所の今後について」と書いてある。
その端的な件名を見た瞬間、僕の左胸は一瞬停止し、次いでバクバクと嫌な音を立て始めた。
体の芯は熱いのに、指先は凍えるように冷たくなっていく。
心臓の音がうるさい。
その一方で頭は、淡々と状況判断していく。
この研究所は、古い施設だ。
耐震性やら免震に不安がないと言ったら嘘になるくらいボロい。
来るべき時がとうとう来てしまった。
そういうことなのだろう。
解体の二文字が脳内で踊っている。
人事部からのメールはまだ届いていないが、この後内示も届くだろう。
好きな事と思い邁進してきたが、上というのは数字を見る。赤字は出ていないが、不要と判断されれば切り捨てられるのが定めだ。
彼女ともこれで…。
そう思った瞬間、ズキリと胸が痛んだ。
彼女との思い出が走馬灯のように浮かんでくる。
3時の休憩、楽しかったな。
休憩があんなにも楽しいだなんて、知らなかったんだ。
いつも怒られる事が多かったけれど、内心嬉しかったんだよ。君の優しさに触れているようで。
あぁ、流れ星を見た時に約束したお給料アップ。叶えてあげられなかったな。
楽しかった思い出と、果たせなかった約束に胸がどんどん苦しくなってくる。
ズルい心が、メールを開かないという選択肢もあるぞと耳打ちしてきたが──それは一時の逃げだ。
事実を知るのが、少し遅くなるだけに過ぎない。
一度決まったことからは、逃げられない。
研究所の長として、覚悟を決めなくては。
僕は、震える手でマウスを操作し、未読の件名にカーソルを合わせる。
カチリと鳴るマウスの音が、嫌に響いた。
クリックと同時にメールの本文が開かれると、そこには──研究所老朽化による解体の文字が…無かった。
代わりに、新しい検査機導入の知らせが入っている。
以前個人的に培地の検査をお願いしていたものが、新商品の開発に役立つと判断されたらしい。
新しい検査機の導入日と時刻の下には、古い検査機の回収と検査調整の要請が書いてある。
その後ろには、会社の今後の展望と研究所に求められることも書いてあった。
そこも隈なく読んだが、解体や異動の文字は見受けられない。
詰めていた息を大きく吐き出す。
それと同時に、胸に安堵が広がっていった。
まだ僕にやれることはあるらしい。
今できることは、検査の日程調整を考えることだ。
僕は早速取り掛かることにした。
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胸の鼓動
ラボ組──博士の場合
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最近、「勿体ない」という言葉と出会う回数が多い。
いつものように受け取るのを拒否していたが、それも難しいくらい目に付いている。
勿体ない。
意味がわからないくらいに、繰り返し繰り返し出会う言葉。
けれど、届くことには何か意味があるのだろう。
向き合うしかない。
胸に手を当てると、心臓は静かな音を立てている。
その音に耳を澄ましていると、脳裏に浮かび上がってきたのは可能性の光景だ。
今とは異なる環境の世界。
光って見えるその光景に心惹かれる自分がいるのは、確かだ。
手を伸ばし、求めても良いのだろうか。
本当にその価値が自分にあるのだろうか。
求めた瞬間、手を振り払われたらと思うと怖い。
?…脳裏にオセロの駒が出てきた。
白黒表裏一体の駒。
価値がないの反対は、価値がある。
勿体ないの反対は、勿体ある。
なるほど。
ゲームのようにひっくり返せば良かったのか。
これなら気弱な自分でも出来る。
そうと決まれば、勿体ないをひっくり返して、光って見える光景に手を伸ばしてみよう。
振り払われたら、ひっくり返れば良いや。
蝶が飛んでいる。
ヒラヒラと踊るように飛ぶ姿はいつ見ても美しい。
「好きな虫は何?」と尋ねられたら、私は迷わず「蝶」と答える。
どれくらい好きかと言うと、蝶を見かけただけで重い足取りが、踊るような足取りに変わってしまうくらい好きだ。
特に、アゲハ蝶科が好ましい。
アオスジアゲハやクロアゲハが持つ羽の美しさは、筆舌に尽くしがたい。
神は細部に宿るというが、本当にその通りだと思う。
そんな愛おしい蝶だが、彼らの飛び方はユニークだ。
真っ直ぐ緩やかに飛んでいたかと思えば、急にスピードを上げたり、ジグザグ飛行したりと、こちらの予想の斜め上をいく。
蝶道などの関係にもよるのだろうが、パターンがまったく読めない。
邪魔にならないよう道の脇に避けても、飛び込んでくるのだから驚きだ。でも、そういう不思議なところも愛おしい。好きという感情も面白いものだ。
前は良く出会っていたのだが、生活時間が変わってからは滅多に会えなくなってしまった。
どうやら蝶たちの時間とズレてしまったことが原因らしい。
時間が変わるだけで、出会えなくなるものは多い。
出会うことは、当たり前ではないのだとしみじみ思う。
綺麗なものや美しいもの、不思議なものに出会う時、或いはそれについて思いを馳せる時、私は好きなアーティストの歌詞が頭に浮かんでいる。
「君に驚異と 敬意で考える」
森羅万象を思う上でも、この言葉以上に相応しい言葉を私は知らない。
故に、私にとってこの言葉はお守りだ。
この世界に対して、優しい目を忘れない為の大切なお守り。
優しい目で軽やかにこの世界を行けば、素敵なものはそこかしこに見つかる。それを幸せと人はいうのかもしれない。
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踊るように