NoName

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9/4/2024, 2:59:12 PM

本物を求める長い旅路の果てに
穏やかなひだまりを見つけた。

ここに暗い闇はもうない。
 
影に隠れず語り合おう。
この胸に宿る
素直な言葉で伝えよう。

ごめんなさい。
ありがとう。
嬉しい。
楽しい。
大好き。

この言葉の煌めきは
イミテーションではないよ。

そして、ずっと根幹にあり続ける
この言葉も。

貴方という存在の奇跡に感謝を──。

胸の内では貴方がくれた本物の光が
煌々と輝いている。
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きらめき

9/3/2024, 2:51:37 PM

枕元のデジタル時計を見ると、ゾロ目が並んでいた。

寝起きの頭は、古の「キリ番」の文字を出してくる。
懐かしさと同時に湧き上がるのは、ささやかな高揚感だ。

ただ同じ数字が並んでいるだけなのに、何故こうも嬉しくなるのだろうか。
その答えは持ち合わせていないが、何となく良いものが見れたと微笑んでしまう。

駅へ向う途中の道では、百日紅がまだ鮮やかな色をして咲いている。
夏から秋まで咲き続ける花のバイタリティーには、目を張るものがある。
強い生命力がありながら、繊細な美しさもあるのだか素晴らしい。

心の中で百日紅に賛辞を送りながら道を進むと、植物が群生する空き地が見えてくる。

風の通り道でもあるそこは、この時期、賑やかな舞踏会が開かれている。
主役はビタミンカラーが晴れ晴れしい、キバナコスモス。
オレンジ色のフリルをフワリとさせながら、楽しそうに踊っている。
時折、飛び入り参加の蝶やトンボの姿も見られる。

愛おしい光景に心を洗われたなら、この後に待つ満員電車も耐えられるというものだ。

仕事でヘトヘトになって帰ってきたとしても、
お気に入りのソファーで甘いものをつまみつつ一服すれば、穏やかな気持ちは取り戻せる。
その際、推し達の投稿を見たならば尚の事心は癒され、明日も頑張ろうという気力が湧いてくる。

マイナスがあれば、それを転じる為のプラスが必ずある。

日々の中にある些細な事に目を向ければ、そこには小さな幸せが数え切れないほどあり、私たちの日常を彩っている。

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些細なことでも

9/2/2024, 2:59:58 PM

真っ暗な闇の中で、小さな炎が灯っている。

ユラユラと揺れる炎は、時に大きく、時に小さくなりながら、枯れ木にしがみついている。

まるで、消えてしまうことを恐れるかのように。

傍にあった僅かばかりの枯れ葉をくべて、そっと息を吹きかける。
新しい拠り所を得た炎は、踊るように燃え出し、一時の勢いを取り戻した。

炎からパチパチと音が響いている。

その音に耳を傾けつつ、懐から青い石を取り出す。

ハート型をしたクルミサイズの小さな石だ。

かつてその見た目から「青い心」と呼んでいたそれは、子供の頃、誰かから渡されたものだ。
「決して無くしてはいけないよ」と言ってくれたその人の顔は、覚えていない。
ただ、もらった言葉だけは鮮明で「無くしてはいけないのだ」と幼心に思っていた。

誰にも言わず、ずっと隠し持っていたのだが──保管の失敗と経年劣化により──元のサイズより小さくなってしまった。

炎に透かすと、小さな石は複雑な青い煌めきを返す。
キラキラとしたその輝きは、見惚れるほどの美しさだ。

この石には面白い特徴がある。
炎に入れると燃料になるばかりか、石自身も輝きを増し、決して燃え尽きることもない──不思議な石だ。

炎に入れると美しい光も放つので、昔はそれが見たくてよく行っていたが──最近はご無沙汰していた。

パチパチと音を響かせていた炎から、音が消えている。

枝を燃やし尽くし、僅かな葉に縋る炎は、風前の灯といった様子で喘いでいた。

今にも消えそうな小さな炎の上に、青い石を置いてみる。
すると、一瞬にして青い炎が煌々と燃え上がった。

予想外な眩しさに驚いていると、遠くの方から呼び声が聞こえた。

どうやら、青い炎の明かりが誰かの元に届いたらしい。

青い炎の前に立ち上がり、声がする方に向かって応答の声をあげた。

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心の灯火

9/1/2024, 2:57:38 PM

開けない未読のLINEがある。

メッセージをくれた相手はとても良い人なのだが、つい最近行き違いがあった為、読むのを保留にしていた。

いい加減逃げているのも良くないだろう。
勇気を出して、アイコンをタップする。

開いてみると、何やら物騒な字面が並んでいる。

思わず心臓がヒヤリとし、怖さのあまり反射的にLINEを閉じようと思ったが、思い直した。

メッセージをくれるには、何か理由がある。
時間を割いてまで言葉を紡いでくれたのだ。
全文読んで傷ついたとしても、それすらも学びとすれば良い。

覚悟を決め、メッセージと向き合う。

メッセージの中に内在する「冷ややかな印象の言葉」を受け止める度に、身が切られていくような感覚がする。
それらを反省材料として拾い上げ、言葉の中を縫うように進んでいくと、胸の奥に温かみのようなものが広がっていった。

不思議だ。

相手のことを100%理解している訳では無い。
それでも、これまでの経験から相手の事を優しい人であると、心は信じて疑わない。

そのせいなのか、言葉の奥に優しさを見つけ出してしまう。
メッセージをくれた相手の思いすらも──。

感じたことは、幻かもしれない。
第三者から見て、この感覚は愚かな事であるかもしれない。

それでも──

構わない。

返信をタップし、キーボードに向かって指を滑らせる。
打つ言葉は決まっている。


「ありがとう」


開けなかったLINEの先には、人を信じる道が続いている。
それは勇気を伴う事だが、自分で決めた事と思えば後悔することもない。
間違えたならば、学びにすれば良い。

自身が体験する物事は、自分のためになるのだから。

8/31/2024, 2:47:36 PM

不完全な僕たちは、間違う。

言葉一つ隠すだけで、違う景色を見てしまう。

すれ違う言葉の中で、それでも向き合う事をやめなければ──僕達は分かりあえるだろうか。

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潮騒が響く夜の浜辺で、紺色の制服を着た過去と向き合う。
私と過去の合間にあるランプだけが、この場においての唯一の明かりだ。
遠く広がる思考の海は黒い背景と化し、潮騒の音ばかりを響かせている。

「最近はよく力を貸してくれるね。やっぱり、見ていられないから?」

潮騒の音に負けないよう声を張って、過去に問いかける。
過去は顔をしかめると、吐き捨てるように言った。

『テンプレートなんか使っているからよ』

どうやら仕事で使う『テンプレート言葉』がお気に召さないらしい。

「テンプレートは、他者との摩擦を避けるためのものだよ。誰だって言葉のすれ違いはしたくない。更に言うなら、危機管理という面から見てもテンプレートは最適解なんだよ」

私の言葉に、過去はますます眉間のシワを深くした。

『自分の言葉を使わないだなんて、寂しいものね』

「そういうもんさ。社会なんて見せかけの言葉だらけ。その言葉の奥では、弱い人間が言葉に怯えているのさ」

『弱虫』

「結構」

過去の誹りを受け止められるくらいには、こちらも年を重ねている。

「もう一度聞くけど、その弱虫に手を貸してくれるのは何故?」

私の再度の問に過去は思考の海へと顔を向けた。
暗い海から吹く涼しい風に、紺色のスカートがはためく。
風に身を任せるかのような過去の姿からは、怒りの感情は伺えない。

『難解な書物を読み解こうとしているから』

過去がポツリと言葉を零した。
難解な書物とは、寝しなに読んでいるお気に入りの本の事だろう。

「確かにここ最近は、難解な書物と向き合っているね。表向きの言葉に隠された、作者の意図を読む。君が好きな行為だ。今の書物は、君にとって楽しい?」

私の問いかけに過去が俯く。
その口元には、ほんのりと笑みが浮かんでいる。

『…楽しい』

ポツリと漏れたその言葉に、嘘はなさそうだ。

「作者の意図を読むという行為は、物語以上に情報過多になりがちだ。久しぶりにやると骨が折れるね」

『何故そんなになるまで、深読みをしなくなってしまったの?』

過去の黒い目が大人になった私を捉えている。
その目はどこまでも真っ直ぐだ。

「この世界でいちいち深読みをしていたら、身が持たないからだよ」

誰かが一の動作をしただけで、君は沢山の可能性を見出す。勝手に想像し、本来ない可能性にすら光を当ててしまう。
他人のことなどわからなくて当然なのに、わかったような気持ちになってしまう。
そうして、いちいち必要のない傷を拵える。

もし、過去にそれを知っていたなら、何かが変わっていたのだろうか。
そんな詮無いことを思ってしまう。

端的な言葉から過去は何かを探ろうと、じっとこちらを観察している。

『そう言いながら何故、また深読みをしようと思ったの?』

「向き合う時期が来たんだろうね」

『時期?』

「そう、ずっと使わないでいたコレを本当に捨てるか、昔とは違う形で使うのか。選ぶ時期」

選択肢はいつも突然に現れ、どちらかを選べと宣ってくる。それを、運命と位置づけるか私はまだ決めかねている。

「ただ、使わなくなって久しいからね。どうにも、以前のようにすんなりとは正解の景色が見えないけれどね。全ての解釈は、自由が故に──なんてね」

『表向きの言葉に流されてぐるぐる渦の中に入るから、なにしてるんだろうって思ってた』

淡々とした口調で過去が言う。

「手厳しいね。それでも助けてくれるんだから、優しいというべきかな?」

『どうとでも』

過去がニヤリと笑う。
悪戯好きそうな悪い顔だ。

「最近、作品を行き来させているのも君でしょう?」

私の問に過去は唇を尖らせた。

『ページを捲った先に真実はあるのに、ここはスクロールでつまらないのよ』

本という形なら、ページを行ったり来たりして必要情報を拾うことが出来る。

「君の美意識みたいなものに振り回されていた──という解釈でOK?」

『だいたいね』

「あの、出来ればすんなりと読めるようなものを提供して欲しいんだけど…」

『気が向いたらね』

過去はどこ吹く風だ。

対話を重ねればいずれは分かりあえるはず。
…多分。

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不完全な僕

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