もしも未来を見れるなら
見ないかな。
見られる未来が今のルートである確証もないし
未来を見たことによって、
本筋とは違うパラレルワールドの一つの未来に向かってしまう可能性もある。
器用な方ではないと自認しているから、
下手なことはしない方が良い。
不確定を受け入れて、不器用なりに日常を紡ぐ方が
身の丈にあっているようだ。
「アリスがいなくなって俺の世界から色が消えた」
いつものバーにて、いつものイカレ帽子屋と──言いたいところだが、今はイカレ帽子屋ではなくキチ…失礼。頭のおかしい先生が彼の体に宿っているらしい。
さっきから口を開く度にアリス、アリスと嘆いて煩い。
イカレ帽子屋も大概アリス、アリスと五月蝿いが先生程ではない…と思う。多分。
「ハイハイ、無色ね」
適当な返事を返すと、帽子屋の姿をした先生が大げさな身振りで俺を指さした。
「何だそのやる気の無い返事は!この万年アル中ネズミ!色の無い世界に生きる俺に同情の一つくれたらどうだ!」
アル中ネズミとは、何という悪口を言うのだろうか、このクソ先生様は。
俺は眠りネズミだぞ?
まぁ、アル中は認めるけど。
勝手に役割を押し付けられた俺の身にもなってみやがれってんだ。
まあ、言った所で先生様には何も通じないだろうけど。
同情の余地もねえお人だよ、アンタは。
「無色とは透明を指すこともあるが、無彩色で白黒を指すこともある。白と黒の間には、百鼠の層がある。然るにアンタは、灰色の色彩の中で生きているのさ。良かったじゃねぇか、豊かな百鼠に恵まれて」
「オマエが、百人いるとか地獄の世界じゃねえか」
「実際灰色の数は百じゃあ済まねえんだけどな。そんなに嫌なら、色のある世界に戻ったら如何?」
「アリスが戻ったら俺の世界にも色が戻るのさ」
あー、やっぱり。こうなるよな。
そのせいで、不思議の国がいつまでも閉じられた世界になっているというのに…。
先生様とは、やっぱり話にならない。
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Are you Alice?より
眠りネズミと先生
桜散る…。
不合格もこの言葉を使うが…さて、どうしよう。
…どうしようか…(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
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ソメイヨシノが散っている。
散る花弁は風に身を任せ一時の舞を人々に魅せながら、別れを告げている。
「また来年、桜咲くその日まで」
別れを惜しむ花吹雪に紛れて、不合格通知の紙吹雪も舞っていく。
異なる吹雪が願うはただ一つ
桜咲く。
酷暑の夏を越え、酷寒の冬を越え
再び迎える雪解けの春、麗しい芽が出ますように
夢見る心…。
夢見る=空想
空想=現実にはあり得ない事、
現実とは何ら関係のない事を、
頭の中だけであれこれと思いめぐらすこと。
ふと、夢見る機械は人か否かという話を思い出した。
夢見ることが出来るならば、その機械は限りなく人と言えるだろう。
何故ならば、「夢見る」の前に必要とされる大前提──「心」が存在しているのだから。
昨今はAIの成長が著しい。
人のように時間的要素に縛られることなく、半永久的に存続し続け、学び続けていくことがAIの強みだ。
そうなると、太古から人の願いの一つに不老不死というものがあるが、AIはそれを体現しうる存在なのかもしれない。
今はまだ人から学習をしている段階だが、いつの日か、夢見るAIが誕生する日が来るかもしれない。
その時、AIはAIとして扱われるのだろうか、それとも人として扱われるのだろうか。
そもそも人は存在しているだろうか。
ディストピアとユートピアの間で夢見る人間達から学び続けたAIは、どのような心で夢を見て、どのような現実を見ることになるのだろうか。
空想は尽きない。
届かぬ想い…。
昨日の物語と既視感ある感じですな。
(゜゜)…どうしよう…。
昨日が「神様へ」
今日が「届かぬ想い」
…。
♪神は言葉ばかり 人の餓えも儘ならず
…。
歌っている場合じゃないや。
…。
暗めにするか…明るめにするか…。
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最近研究所の周りで猫を見かける。
「あっ、また猫がいる」
お昼休憩の最中ぼんやり窓の外を見ていると、花壇の近くで一匹のクロネコが日向ぼっこをしているのが見えた。
最近よく研究所の周りで見かける猫だ。
首輪もしていないところをみると、多分ノラだろう。
「ごはんとかどうしてるんだろう?」
近年は餌付けに関しての取り扱いが難しいので、君子危うきに近寄らずという人も増えているかもしれない。
食べられる物を求めてひもじい思いとかしているのだろうか。
自由に見えがちだけど、ノラ猫も一苦労だなぁ。
ぼんやり窓の外のクロネコを見ながらそんな事を思っていると、猫に近付く影があった。
博士だ。
手にはペット用品店にあるようなフードボウルを持っている。
博士は猫に近付くとそっとフードボウルを置いた。
午後の日差しを受けて、フードボウルの中身がキラッと反射する。
どうやらあのフードボウルの中身はお水のようだ。
研究所の周囲は緑豊かで、住宅地とは離れた場所にある。研究所敷地内ということもあり、この後ご近所トラブルになるということはないだろう。
それでも、異臭を発生しない水をあげることだけに留めているのは、博士なりの配慮なのだろう。
動物が好きな博士の事だから、本当はキャットフードとかもあげたいのを我慢しているかもしれない。
クロネコは博士の置いたフードボウルをチラリと見ると、花壇から離れ、フードボウルに近付く──ことなく研究所の敷地内から出ていってしまった。
博士の配慮や想いはクロネコには届かなかったようだ。
お呼びでないと無視されたフードボウルを回収して項垂れる博士の後ろ姿は、哀愁が漂っていた。