星が溢れる…。
うーん、実に情緒的。
情緒には情緒をお返ししたい所存だが、
…難しいな。
星…。星。
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「君の身体を構成する元素は、人から見れば悠久とも言われる時間、宇宙を旅してこの地球へと辿り着き、君の中へ宿った。己の中に悠久の時を知るものが宿っているだなんて、ロマンがあると思わないか」
双子座流星群の夜。
天体望遠鏡をセットしながら、貴方は言った。
機材の代わりに手渡された星座早見盤を片手にぼんやりと星を眺めていた私は、間抜けな声を上げてしまった。
作業が終わるまで話しかけられないだろうなんて油断をしていたから、頭と言葉がまだ追いつかない。
もらった言葉を咀嚼しようとした瞬間、甲高い金属音が耳を打った。
コロコロと転がったネジが、自分のつま先にコツンと当たって止まる。
どうやら先ほどの金属音はこのネジが上げた悲鳴らしい。
ネジが転がってきた先にいる貴方は、鏡筒を片手に微妙そうな顔をしていた。
悴んだ手ではネジを回すのも一苦労なのだろう。
いつも以上に不器用な動きをする指に苦笑しながら、グーパーを繰り返すその姿は、先ほどの言葉を言った人と同じとは思えない。
足元のネジ(多分、鏡筒固定ネジ)を拾って差し出す。
「ありがとう」
はにかみながらネジを受け取った貴方の瞳の中に光が流れた。
空を見上げると、沢山の流星群が空を駆けている。
冬の澄んだ夜空に光の軌跡を描いては儚く消えていく。
時に力強く。時に繊細に。
長い旅の果に辿り着いたこの青い惑星に証を残すかのように、美しい光の奇跡がそこにはあった。
儚く消えた星の原子は、この青い惑星に留まるのだろうか。
もし、留まったとしたならば、この青い惑星で他の分子と混じり合い、新しい命となっていくのだろうか。
そうして出来た新しい命は、この世界を循環し、私や隣り合う貴方とも出会うのだろうか。
途方もなく、長く短い出会いを何度も何度も繰り返していくのだろうか。
果てない旅路の軌跡と奇跡を思うだけで心が震え、涙が溢れた。
頬を伝う涙に手が触れようとした瞬間、白いハンカチが頬を包んだ。
「星が溢れてる」
光の軌跡を背に貴方が優しく微笑んでいた。
安らかな瞳
…安らか。
…。
ちょっと意味を調べよう。
安らか:何事なく平穏無事であるさま。
何の心配もなく心が穏やかなさま。
…なるほど。
安らかな瞳=穏やかな瞳、ということか。
…昨日書いた物語とニアピンな感じだ。
昨日の物語は今日生まれるべきだったのかPart2…。
…。
くだらないことを言っていないで、テーマに向き合おう。そうしよう。
今回のテーマは、物語向きだと思う。
物語を打つとしたら…。
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初めて君に出会った時、花のような人だと思った。
周囲を明るくするような笑顔に、鈴のような声。
穏やかで理知的な君の姿に、ひだまりで人を迎え入れる花々が頭の中を巡った。
蒲公英、白詰草、フリージア、ネモフィラ、向日葵、コスモス、ダリア、薔薇。
どの花もあまりに君にピッタリ過ぎて驚いた。
それと同時に、近寄り過ぎてはいけないという自分の声を聞いた。
自分にとって、花は清らかなものだ。
清らかなものは、神聖に繋がる。
花のような君の神聖さを保つには、壁一枚越しにそっと見るくらいが丁度いい。
だから、近寄り過ぎない。
そう、決めていたのに。
君の作るひだまりの世界はどこまでも穏やかで、色鮮やかだった。
初めは壁一枚越しから見ているだけで十分だったはずなのに、いつからかそれだけでは満足できなくなっていた。
そんな事を思っていたからだろうか。
それとも、もう少し…なんて欲をかいたからだろうか。
気づいた時には、壁から出てしまっていた。
慌てて壁に戻ろうとしたけれど、どうやら遅すぎたらしい。
君の安らかな瞳に、恥じ入る自分の姿が写っていた。
ずっと隣で、貴方の声を聞いていたかった。
貴方と初めて出会った時、挨拶も自己紹介も端的で、なんてつっけんどんな人なんだろうって思った。
どこか人と壁を作るようなその態度は、自分の領域には踏み込ませないという無言の圧力にも感じて、まだ若かった私は貴方のことが少し怖かった。
きっと、孤高な人なんだろう。
そう、頭では理解できても、もう少し…と思ってしまう自分がいた。
もう少しってなんだろう?と一瞬疑問に思ったけれど、若い思考は直ぐに自己反省の世界へと向かっていた。
次は気をつけよう。
今回はお仕事の関わりでしかないのだから。
お仕事は、お仕事。プライベートはプライベート。
ちゃんと分けて考えられるのが大人。
もしかしたら、向こうもそのつもりだから、つっけんどんなのかもしれない。
仕事は友達を作る場に非ず。そういう考えの人なのだ、きっと。
そう自分の中で落とし込んで、私は貴方との仕事に向き合うことにした。
それなのに。
お仕事で会えば会うほど貴方の魅力ともいうべき、新しい顔が見えてくる。
知識豊富かと思えば、一般的なことが抜け落ちていたり。一瞬のことさえ逃さないスマートさがあるのに、すぐに忘れてしまったり。凄いものを作る一方で、へなちょこなものが好きだったり。
目まぐるしいまでのギャップに何度驚かされたか。
初めはつっけんどんだった貴方が、時を重ねるたびに、はにかむような笑顔を見せてくれるようになった。終いには、冗談を言い合える関係に私達はなっていた。
言葉と言葉を重ねていくうちに貴方の本当の姿が、私には見えていた。
つっけんどんな仮面の後ろにある貴方は、シャイで優しい人。
お仕事の関係って割り切っていたことも忘れて、私は貴方の声に耳を傾けていた。
でも、忘れてはいけなかった。
これは、お仕事。
始まりがあれば終わりは必ずある。
何事もそうなのだから、お仕事もまた然り。
貴方とのお仕事最終日。
最後の日だったのに、貴方は来なかった。
どうしても外せない仕事の方へ貴方は行ってしまった。
ポカリと胸に穴が空いた感覚をまだ覚えている。
仕事仲間たちがくれた花束に隠れて零した涙も。
まだまだ隣で貴方の話しを、声を聞いていたかった。
最後まで冗談を言って笑いあいたかった。
ちゃんと感謝の言葉やお別れの言葉を言いたかった。
でも、もしかしたらって今でも一つの希望を抱いていることがある。
あの時、貴方は敢えてお仕事を理由に、私とのお別れの言葉を言う事を避けていたのかもしれない。
お別れの言葉を言わなければ、お別れじゃないから。
なんて、子供みたい?
でも、貴方ならイタズラがバレた子供みたいに笑うでしょうね。
なんとなくだけど、十分想像出来てしまう。
貴方はシャイで、優しい人だから。
貴方とのお仕事から時は流れ、沢山の変化を受け入れながら、今日も私は生きている。
貴方の隣で、貴方と言葉を重ねて、貴方の仮面の下の素顔を見ることが出来た──私のささやかで鮮やかな人生の1ページを大切に抱えながら。
昨日は久しぶりに
【平穏な日常】というテーマに絡めて
互いが相手の見ている世界を知りたがるという物語を作った。
そして、本日のテーマが【もっと知りたい】。
昨日の物語は、今日生まれてくるべきだったのかもしれない──などと益体もないことを思ったのはココだけの話。
さて、無益に文字を連ねずテーマに向き合おう。
物語を打つ力はないし、能書きすら危ういので、頭の中の文字をそのまま打ち出そう。ここ最近コレに頼り過ぎだけれど…まあ、いいや。
「もっと知りたい」という言葉はとてもポジティブな言葉だと思う。
嫌いな物事をもっと知りたいと思う人は多少いるだろうが、その目的は批判などの為であり、言葉の語感から考えるに歪な使い方のような気もする。
しかし、好きすぎるあまりに憎くなり、嫌いなのに気になって仕方がないなど、人の心の難しさが関わることなので一概には言えない。
個人的には、「好ましい」「興味がある」「惹かれる」など、ポジティブな好奇心が根幹にあるほうが王道な気がする。
ポジティブな気質ではあるが、これが一方的、もしくは強すぎると「ストーカー」など犯罪にも転じたりする。
好奇心、探究心、知識欲。
どんな力にも言えることだが、使い方を間違えてはいけないのだろう。
ポジティブの持つ軽やかさと明るさをふんだんに利用して、自分も周囲もその恩恵に預かれるような───そんな使い方を心がけていきたいものだ。
「平穏な日常ってどう?」
「…藪から棒だな」
いつもの屋上。
放課後の駄弁りタイムの最中、突然彼女が言った。
平穏…。
うん。意味は知っている。
変わったことも起こらず、穏やかな様。
日常の意味は…常日頃、普段。
二つを合わせると平凡な日。
取り立てる話題もない日。
そんなところだろうか。
それをどう思うかだって?
「平凡で悪いことってあるのか?」
「悪いなんて一言も言ってないでしょう」
ズバッと切り捨てるような言葉が返ってきた。
メガネの奥の目が怖い。
「ただ、あんたっていつもどこか冷めてるから」
お前も十分冷めてると思うんだが…。
「何事もない日常をどう思っているのか…そう思っただけ」
つまらない質問したわ。
彼女は淡々と言葉を吐き捨てると、そっぽを向いた。
…突然のご機嫌斜めかよ。
参ったなぁと頭をボリボリ掻きながら、彼女の方をチラリと伺う。
整った横顔は、怒っているというより、凛と何かを見据えているようにも見える。
優秀な彼女にしか見えない何かがそこにはあって、見えない何かと対峙しているのかもしれない。
その姿は凛々しく見えるのに、どこか儚さも纏っている。言葉で繋ぎ止めないと消えてしまうような気がした。
彼女の言葉を頭の中で繰り返す。
さっきの言葉には、彼女としては珍しい「間」があった。しかも、「思った」という言葉を2回も繰り返している。間に入る言葉、もしくは濁した言葉があるのか?
そもそもなんで、俺の日常の捉え方を知りたがるのだろうか。
俺の普段見ている景色なんて、彼女が見ている景色よりもずっと薄っぺらくて語るに価しないものばかりなのに。
こんな俺よりも、彼女の方が…。
彼女の聡明な眼差しは今、空を写している。
同学年の誰とも違うその瞳は、物事の本質を見極め、真実の姿のみを写してみせる。
すべてを見透かす瞳で見る世界は、きっと俺とは違うものが見えている。
知りたいのは、俺の方だ。
「お前にはこの日常がどう見えているんだ?」
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「あなたの見ている世界を教えて」
なんて素直に言えない。
だってあなたに興味があることがバレてしまうから。
それなのに、直球で投げてくるのは
天然なの?