「平穏な日常ってどう?」
「…藪から棒だな」
いつもの屋上。
放課後の駄弁りタイムの最中、突然彼女が言った。
平穏…。
うん。意味は知っている。
変わったことも起こらず、穏やかな様。
日常の意味は…常日頃、普段。
二つを合わせると平凡な日。
取り立てる話題もない日。
そんなところだろうか。
それをどう思うかだって?
「平凡で悪いことってあるのか?」
「悪いなんて一言も言ってないでしょう」
ズバッと切り捨てるような言葉が返ってきた。
メガネの奥の目が怖い。
「ただ、あんたっていつもどこか冷めてるから」
お前も十分冷めてると思うんだが…。
「何事もない日常をどう思っているのか…そう思っただけ」
つまらない質問したわ。
彼女は淡々と言葉を吐き捨てると、そっぽを向いた。
…突然のご機嫌斜めかよ。
参ったなぁと頭をボリボリ掻きながら、彼女の方をチラリと伺う。
整った横顔は、怒っているというより、凛と何かを見据えているようにも見える。
優秀な彼女にしか見えない何かがそこにはあって、見えない何かと対峙しているのかもしれない。
その姿は凛々しく見えるのに、どこか儚さも纏っている。言葉で繋ぎ止めないと消えてしまうような気がした。
彼女の言葉を頭の中で繰り返す。
さっきの言葉には、彼女としては珍しい「間」があった。しかも、「思った」という言葉を2回も繰り返している。間に入る言葉、もしくは濁した言葉があるのか?
そもそもなんで、俺の日常の捉え方を知りたがるのだろうか。
俺の普段見ている景色なんて、彼女が見ている景色よりもずっと薄っぺらくて語るに価しないものばかりなのに。
こんな俺よりも、彼女の方が…。
彼女の聡明な眼差しは今、空を写している。
同学年の誰とも違うその瞳は、物事の本質を見極め、真実の姿のみを写してみせる。
すべてを見透かす瞳で見る世界は、きっと俺とは違うものが見えている。
知りたいのは、俺の方だ。
「お前にはこの日常がどう見えているんだ?」
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「あなたの見ている世界を教えて」
なんて素直に言えない。
だってあなたに興味があることがバレてしまうから。
それなのに、直球で投げてくるのは
天然なの?
3/11/2024, 12:42:46 PM