Are you going to Scarborough Fair?
スカボロー・フェアーに行くのかい?
Parsle, sage,rosemary and thyme
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
Remember me to one who lives there
そこに住んでるあの人によろしく伝えておくれ
She once was a true love of mine
彼女はかつて私の真実の恋人でした
古い歌を口ずさみながら街へ
Parsle, sage,rosemary and thyme
身を守る呪文も無効化し
古の森を越える
妖精に付き纏われても
Parsle, sage,rosemary and thyme
聞く耳を持たず
針を使わず縫い目もないシャツを片手に
街へ
愛おしい彼女へ会うために
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Parsle, sage,rosemary and thyme
街へ
特別な言葉はかけない。
代わりに
何があろうと
絶対君を見捨てはしない。
君と共に長い長い旅をし、
君が還っていくその日まで
君に寄り添い
君の言葉に耳を傾ける。
嬉しい時は、共に喜び
悲しい時は、共に悲しみを背負う
君から姿は見えなくても
いつも君を静かに見守る。
優しいからじゃない。
ただ、そう在りたいから
そうしているだけ。
ただ、それだけ。
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優しい住人
誰もが寝静まる真夜中。
君の中で今日もせっせと働く影が一つ。
今日起きた事。
学んだ事。
君にとって思い出、または、記憶と呼ばれるそれらを
影は、仕分けて整理する。
影の仕事は、君の今日一日の行動を整理することから始まる。
朝の支度から始まり、その日食べた物、行った場所、会った人、その時交わした会話等など。
君が見たもの、聞いたもの、全てを書き出していく。
君が思い出したい時にちゃんと思い出せるように
インデックスをつけるのも忘れない。
その作業を終えた後、
今度は、君が感じた事を整理していく。
君の心の襞にやさしく触れ、君独自の感性を慈しむ。
影は、君が君である事が誇らしいのだ。
並大抵の人であったならめげてしまう作業も
頑張ってしまえるのは、
君の見てきたもの、感じた事、
君の全てが大切だから。
影は、手抜きをしない。
今日も沢山の大切な記憶を整理する。
その中で気になった出来事を繋げて
ちょっとしたプレゼントを作ってみる。
支離滅裂で意味不明な物を作っちゃうこともあるけど
君の反応が見たいから
作っている時は毎回ドキドキ、ワクワクしている。
今日の君はどんな反応をしてくれるだろうか。
現実でも覚えていてくれたら嬉しいな。
影は君の中でひっそりと微笑んだ。
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真夜中の影
部屋の中には、
カードの子供と(何故いるか判らないが)本体。
そして、「彼女」がいた。
別れた時と寸分変わらないその姿に、
心が打ち震える。
消えなかった。
彼女は、消えなかった。
何度も何度も頭の中でその言葉を反芻する。
言葉を噛み砕く度に、
ジワリと温かいものが心の中に広がっていった。
これは何だろうか。
何故こんなにも温かくて、
泣きそうになるのだろうか。
言葉で言い表せないその感情に身を委ねていると、
本体と彼女が手を握っているのが見えた。
我が物顔でこの世界を壊していった。
悪魔のような者達を招き入れた張本人が、
彼女の手を握っている。
俺は目の前が真っ赤になった。
そして、我を忘れて叫んでいた。
「彼女から離れろ!!」
部屋中に轟く雷鳴のような怒鳴り声に、本体がたじろぐ。その情けない姿に、俺はぷつっと糸が切れる音を聞いた。
眼の前にいるのは何だ?
敵だ。
敵は、排除しなければならない。
これ以上、この世界を壊されてなるものか。
一歩踏み出した瞬間、
眼の前に行く手を阻む真っ白な壁が現れた。
この技を俺は知っている。
この技は、初代の。
「熱くなりすぎよ」
白い壁の向こうから、懐かしい声が聞こえた。
「お前は…」
白い壁は、徐々に小さくなるとハラリと地面に落ちた。
四角くて、白い──よく見慣れたカードだ。
拾い上げると、「壁」の文字が書かれている。
「私のだから返してね、それ」
カードから顔を上げると、初代カードの彼女がいた。
彼女も以前別れた時と変わっていない。
俺の持つカードをさっと奪い取ると、手の中でカードをクルクルと回す。
鮮やかなその手さばきに見惚れていると、手の中にあった「壁」のカードはどこかへ姿を消した。
彼女のカードの収納先はいつもわからない。
「お久しぶりね。と言っても、この姿では、だけど」
その言葉で、俺は全てを理解した。
「お前は、あのカードの子供だったのか」
「あら、思考は鈍っていないのね。その割には、私の存在に気付かないだなんて」
洞察力があるんだか、ないんだか。
初代カードは、やれやれと肩をすくめた。
今日のテーマは、逆光ですか。
昨日の文学繋がりで「斜陽」とかでもなく
逆光…。
逆光ねぇ。
うーん。逆光。逆光…。
おや、「見せ場」と書かれたカードが現れた。
確かに逆光は、「お前は誰だ」みたいなシーンで使われたり、「現れたのは、敵か、味方か」みたいなシーンでも逆光が多い。
隠していたことを表に出すシーンも逆光が多い、か。
体の一部が影で隠れることによって、不吉や意味深、疑惑等など、心をザワザワさせる効果が逆光にはあるのかもしれない。
さてさて、それを踏まえて物語を書くならば何が良いだろうか。
久しぶりにカードも現れたし、彼らを覗いてみるとしますか。
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海の底を二つの影が歩いている。
海の底は暗黒だと思っていたがどうやら、違ったようだ。
海底を歩く影の一つ──思考の海の番人は、自身の思い描いていた海と違うその景色を眺めながら、つらつらと思った。
光も届かず、海の藻屑となった言葉の残骸で黒く埋め尽くされているとばかり思っていたが、これはどういう事だろうか。
海の底だというのに、周囲はマリンブルー色をしている。そのうえ、明るい。
海面の方が暗いだなんて、意味がわからない。
思考の海の番人が、落ち着きなく周囲をキョロキョロと見渡していると、隣から笑い声が聞こえた。
「貴方もよく知っている場所なのに、どうしたんです?」
「ここは俺の知る海の底じゃない。俺が知るものより、綺麗になっている」
本体の残留思念も、文字の残渣もない海底は、一面白い砂に覆われている。
軽く蹴っても、白い砂が舞い上がるばかりでヘドロが出てくる様子もない。
自分の記憶にある海の底は、こんなに白く輝いていただろうか。記憶にない。
「お前が綺麗にしたのか?」
俺の言葉にドリームメーカーは首を横に振ると、クスクスと笑った。
どうやら、ドリームメーカーの仕事によるものではないらしい。
ドリームメーカーの海漁りの結果ではないとしたら、一体誰がこの海を綺麗にしたのだろうか。
腕を組み唸っていると、ドリームメーカーが話しかけてきた。
「問題です。掃除をしなさいと強制されるのと、自らの意思で掃除をするのとでは、一体どちらが綺麗になるでしょうか?」
何だこの問題は。
そして、何を言いだすのだろうか、コイツは。
「あっ、何を言ってるんだコイツみたいな顔をしましたね。真面目な話のつもりなんですけど」
ドリームメーカーが頬を膨らませてプンプンと怒りはじめた。面倒くさい。
ため息を付き、ボソリと答える。
「自分の意思でやったほうが綺麗になる」
俺の答えを聞いて、ドリームメーカーは、ニッコリと笑った。相変わらず変な奴だ。
「そう、その通り。意思を持って行った方が強制されるより丁寧にこなすものです」
「その問題がこの海の底の様子とどう繋がるんだ」
「ほら、懐かしい扉が見えてきましたよ」
人の話を聞いているのかいないのか、或いはワザとなのか。ドリームメーカーは、前を見ろとばかりに前方を指差した。
何の変哲もないドアの扉だけが海の中にポツリと立っている。
特徴といえば、真鍮のノブを持つのみで、特別なデザインなんてものは無い。何処にでもある至って普通の木の扉だ。
真鍮のノブを回せば、懐かしいあの空間へと繋がっている。俺がずっと避けてきたあの場所へ。
思考の海の番人は、扉の前で立ち止まると静かな目で扉を眺めた。
「さあ、このノブを回して中へ」
ドリームメーカーが耳元で囁く。
ノブをつかもうとのばす手が震える。
これは、怒りなのだろうか、或いは怖じ気づいているからだろうか。
気に入らない。
今更、何を恐れ、何を怒ると言うのか。グラグラと揺れる心を押さえ付け、しっかり指先まで力を込める。
震えることは許さない。許してなるものか。
半ば意地になって、ノブを回した。
ギギギと鈍い音を立て、扉が開くと中から光が溢れた。
眩しさに顔を顰めると、逆光の中に三人の人影があった。