拝復
春の気配がほのかに風に乗っているように感じられる頃となりました。
ただひとつ貴方からの文を待つ時間だけは春や夏など、ましてや暑さ寒さも感じない不思議な時間となっております。
夜更けの灯りのもとで綴られたのであろう貴方の言葉は、どこか春のような温度を帯びていて、読み進めるほどに貴方の優しさを今日の風のように感じます。
恐ろしいものの話でございますか。
貴方のお言葉通り、普段道化のように振る舞っている私にもいくつか不安や恐れがございます。それは時に昼の明るささえも飲み込むほど大きな影となり、時折私もその影に飲み込まれております。
貴方は意地とおっしゃいましたが、意地を張っているつもりはそこまでないのですよ。ただ私はいわば笑顔の仮面を常日頃かぶって生きております故、その仮面を外さぬように影の中でもがく姿が貴方には意地に見えたのかもしれません。
本当に怖いのは影ではございません。影の中で素顔となった私を前に皆がどのような仮面を被り私を見るかなのです。
私はいわば月でございます。貴方という太陽がなければ輝くことはできぬのです。しかし時に訪れる太陽が休む夜には、貴方が再び空に戻るまで私が静かな光を落としましょう。
貴方の文に心を温められたお礼を、まずはお伝えしたく筆をとりました。
また貴方の言葉が届く日を、静かに楽しみにしております。
草々
拝復
暦では春と言いつつも、春の気配はまだ感じられず、星は一層澄んで見える頃でございます。
先日のお手紙、静かな夜にゆっくりと拝読いたしました。
星空を宝石箱に喩えられたお言葉はどこか夢のようでまた、どこか懐かしくもあるようなもので、ふと、私も空を見上げた次第です。
貴方が感じられた星の輝きを私も感じられているのでしょうか。できることなら毎夜、貴方と肩を並べて星を見たいなど願う私は欲しがりなのでしょうか。
けれども、星をすべて私への想いの欠片とおっしゃるのなら、夜は少々明るくなりすぎるかもしれませんね。
お手紙はどうぞ、思い立たれた折にまたお寄せください。
貴方のお言葉を読むひとときは、忙しい日々の中できらりと光る流れ星のように感じます。貴方と共にいたいというのは貴方のお言葉から感じているのか、はたまた流れ星への願い事なのか、貴方はどちらだと思われるでしょうか。
この星の降る夜に貴方の頬を涙が伝い、貴方には星が見えていないのかもしれない。
私は貴方の頬を伝う涙を拭うことも、ましてや貴方の涙ぐむ姿を見ることもできぬのです。私にできるのはこうして筆を取ることだけなのです。
許しを乞うことはございません、ただもし、私の言葉が貴方という星を照らす光となれるのならば、これ以上幸せなことはございません。
貴方の一生の光となることをここに誓います。
まだ夜は少し冷えますゆえ、どうぞご自愛くださいませ。
またのお便りを楽しみにお待ちしております。
敬具