いるめ

Open App
7/28/2025, 11:39:05 AM

虹のはじまりを探して

虹はどこからやってくるのか。
誰もが一度は思うことだろう。
今回、我々はその虹の出どころを突き止めた。
虹製造工場である。
以下はそこで働いているというA氏への取材記録である。

「本日はインタビューよろしくお願いします」
「はい、お願いします」
「ではまず、虹製造工場で働いているというのは本当ですか」
「本当です」
「では、どのような業務をされているのですか」
「素材の選別ですね」
「素材?虹には素材があるのですか」
「そうです」
「一体どのような」
「主にゴミですね」
「ゴミ⁉︎」
「はい、中でも繁華街のカラフルなゴミです。それを色ごとに選別して、色が抽出されて虹になっていくんです」
「へぇー、エコなんですねぇ」
「そうですね、昔は化学物質の煮詰めたようなやつで作ってたらしいですから。その頃に比べればだいぶ環境に配慮してるんじゃないでしょうか」
「なるほど、なるほど」
「まあ、働く方の環境は最悪ですけどね。労働時間長いのに給料低いし」
「ん?」
「労災案件なんてしょっちゅうだし、有給は勝手に無くなってるし」
「は、はぁ」
「大体、虹作ってる工場がブラックってどういうことだよ、レインボー全部混ぜたらブラックですってか、あはははははは」
「あ、あはは、えーとインタビューは以上になります。ありがとうございました」
「あはは、あは、あはははははは」

いかがだっただろうか。
我々は忘れてはならない。
あの虹の向こうに厳しい現実があることを。

7/28/2025, 10:07:47 AM

オアシス

暑い。なんでこんな炎天下に外回りなんか。
こんな日には自動販売機がオアシスになる。
そこの角を曲がった先に自販機がなければ死さえ頭をよぎる。
オアシスor死すって感じだ。
角を曲がる。
あった。俺のオアシス。
助かった。すぐに財布から小銭を出す。
500円玉1枚。これが俺の生命線だ。
投入口に入れる、間際で落としてしまった。
焦らず行方を目で追う。
500円玉はコロコロと自販機の下へ消えてった。
これはまずい!急いで這いつくばる。
アスファルトは焼けるように熱いが気にしてはいられない。
見えた。頑張れば手の届きそうな位置。
砂漠のオアシスの水を貪る旅人のように、姿勢を低くし、必死で手をのばす。
指先がなんとかかかり、救出することができた。俺の生命線。
すぐに自販機に入れ、麦茶のボタンを押す。ミネラルなんてどうでもいいが、水よりお茶を選んでしまう。
ゴトンと落下音。
お釣りより先に麦茶に手をのばす。
フタを開け、一気に身体へ流し込む。
「ふぅー」
快感だ。
少し出てきた元気に任せて歩き出す。
さっきまで呪っていた快晴の空も、今はなんだか晴れやかに思える。
風が吹いてくる。気持ちいい。
頭がすっきりしてくる。
いや、何か忘れているような…
…お釣りだ。
だいぶ歩いてきてしまった。すぐに引き返す。
自販機に着き、お釣り出口を見る。
お釣りは蜃気楼のように消えていた。

7/27/2025, 10:54:59 AM

涙の跡

その星の環境はどんどん悪くなっている。
山は切り崩され、空気や水を汚染する建物が建つ。
神様は悲しみ、涙した。
その涙は未曾有の豪雨となって山へ降り注ぎ、その雨は巨大な川に成った。
その川は築かれた文明をまるごと飲み込んだ。
やがてその川の周りには緑があふれ、生態系が構築されていく。
新たな命の営みを祝福するように空には虹がかかっていた。

7/25/2025, 3:33:45 PM

半袖

部屋にずらっと並ぶ半袖の白いTシャツ。
胸には縦書きで様々な言葉が印刷されている。
「特別な日」「飛べ」「今を生きる」
そこに机にむかう老人が一人…

私はTシャツ職人。白地に黒文字が私の作風だ。
浅草に構えた私の店は外国人観光客に人気だ。
胸に書く言葉はランダム…のように思われるが実は違う。
作品には通し番号をつけていて番号順に頭文字を読めば文章が浮かび上がるという寸法だ。
数年前、私は多額の遺産を相続した。それはもう気の遠くなるほどの額を。
だが、すでに私は満ち足りていた。だから私はその遺産をある場所にすべて埋めた。
…そう、その場所を示す文章をTシャツに隠したのだ。
作った分はほとんど売り終えてしまった。恐らく世界中に点在していることだろう。
こんな文を書いているのは誰かに見つけて欲しくなってしまったからだ。
さあ、探せ!遺産は君のものだ!

書き終えた老人は、その紙を写真に撮り、店の公式アカウントへアップする。
「これで客が増えるといいがなぁ」
そう、ぽつりと呟いた。

7/24/2025, 10:44:00 AM

もしも過去へと行けるなら

過去へ行ける機械が発売された。
見た目はVRゴーグルのよう。
仕組みとしては脳の中の記憶を増幅して映像と音を出力する。
いわば、思い出追体験マシーンだ。
過去に行ける機械という触れ込みに対して、自分の経験した事しか見れないので、一時は批判を受けた。
だが、今では入手困難な代物だ。

それが今ここにある。
さあ、もしも過去へと行けるなら、あなたはいつに戻りたい?

Next