半袖
部屋にずらっと並ぶ半袖の白いTシャツ。
胸には縦書きで様々な言葉が印刷されている。
「特別な日」「飛べ」「今を生きる」
そこに机にむかう老人が一人…
私はTシャツ職人。白地に黒文字が私の作風だ。
浅草に構えた私の店は外国人観光客に人気だ。
胸に書く言葉はランダム…のように思われるが実は違う。
作品には通し番号をつけていて番号順に頭文字を読めば文章が浮かび上がるという寸法だ。
数年前、私は多額の遺産を相続した。それはもう気の遠くなるほどの額を。
だが、すでに私は満ち足りていた。だから私はその遺産をある場所にすべて埋めた。
…そう、その場所を示す文章をTシャツに隠したのだ。
作った分はほとんど売り終えてしまった。恐らく世界中に点在していることだろう。
こんな文を書いているのは誰かに見つけて欲しくなってしまったからだ。
さあ、探せ!遺産は君のものだ!
書き終えた老人は、その紙を写真に撮り、店の公式アカウントへアップする。
「これで客が増えるといいがなぁ」
そう、ぽつりと呟いた。
7/25/2025, 3:33:45 PM