True Love
なんとなく年を重ねて、なんとなく近くの人と付き合い、なんとなく結婚した。
「愛はそこにあるんか?」
CMにそう問われる。
愛とはなんなのだろう。
それなりに長い付き合いで愛着はあるつもりだ。
ただ、それが愛なのだろうか。
夫婦仲はそれなりでそれなりに日々は楽しい。
味噌汁をすすり、テーブルの向かいに座る妻を見る。
こちらの視線に気づくとニコッと笑う。
ああ、幸せとはこういうことを言うのかもしれない。
愛が何かはわからないけれど、こんな日々が続けば良いなと思う。
またいつか
また会いたいなと思う人。
もう会わないなと思う人。
もう会えないかもしれない人。
わたしは「またいつか」と言う。
そのいつかが来るかなんて考えないまま。
星を追いかけて
小さい頃から流れ星が好きだった。
親に連れられて行ったキャンプ場、夜空にきらめく一筋の光。一瞬の出来事だが、私を夢中にするには十分だった。
それから私は夜空を見上げるようになった。
暗い夜空に星が瞬いて見えるのは綺麗だったが、私の目はいつも流れ星を探していた。
昼間にも流れ星が見えることがある、と知ってからは昼夜問わず気づいたら空を見ていた。昼間の流れ星はそうそう見えるものではない。それでも私は空を見上げ続けた。
中3の夏。よく晴れた暑い日だった。教室では先生が夏休みの諸注意を読み上げている。
いつものように空を見ていた。悪かったテストの点を気にしていないふりをしながら。
いつのまにか話は終わり、帰り支度をする。
「一緒に帰ろー!」
いつものグループに誘われ頷く。
「でさー、2組の男子がさぁー」
「え、それほんとに?」
「でもさぁ、意外とー」
いつもの帰り道。いつもの話し声。いつも私は聞き役にまわる。この4人でいるときも空を見てしまう。
「あ、また空見てたでしょー」
バレた。でも、私は空から目を離せずにいた。
「流れ星だ」
思わずつぶやく。
「え?どこ?」
「ほんとだ!なんか光ってる」
「UFOじゃない?」
そんな友人たちの言葉を背に私は走り出していた。
なぜ?自分でもわからない。ただ体が動いた。
あの星に追いつけるはずもないのに。
走った、流れ星を目で追いながら。
ほんの一瞬の疾走。
それは、電柱へ衝突することで止められた。
地面に背がつく。
目の前には青空。
そこに一筋の光。
きっと私の頭の上にも星が回っている。そんな馬鹿馬鹿しいことが頭に残った。
今を生きる
それは突然に報じられた。
「未曾有の巨大隕石です。滅亡の恐れがあります」
やけに淡々と事実を伝えるニュースキャスターの声に、私は現実味が持てないでいた。
隕石が落ちてくるのは、一年後らしい。思ったよりも長いな、と思った。
今までなんとなく生きてきた。
なんとなく勉強して、なんとなく大学に入って、なんとなく就職して、なんとなく独り身で生きてきた。
なんとなく死んでいくのだ、そう思っていたのにこんな終わり方とは。ドラマチックで良いじゃないか。
あと一年、何をしよう。
ただ考えれば考えるほど、己の何もなさに気づく。
結局、惰性で仕事をして過ごしていた。
そんな折、こんなニュースが目につく。
[三国が協定、隕石に対抗]
あの三つの大国が力を合わせて隕石を退けようというのだ。
そしてしばらく経って隕石が破壊されたことが報じられた。
良かった良かった。人類はまだ滅亡しないのだ。私の人生もまだ続いていく。
そんなことを思いながら明日の仕事の準備をする。
…その手が止まった。
旅に出たい。
漠然とそう思った。
終わりはいつ来るかわからない。自分ではわかっているつもりだった。日々を後悔なく生きようとしているつもりだった。
隕石が破壊されたのを知った時、安堵とは違う、高揚した感情があった。
そうか、私は生きたかったのだ。
自分の生を楽しみたかったのだ。
旅に出よう。もう一度強く思う。
他の誰でもない自分を生きるために。
私の今を生きるために。
飛べ
「おい、とんでみろよー」
そんな声が聞こえた。校舎裏だ。
鼻にかかったような特徴的な声。
その声の主に心当たりのある僕は、恐る恐る声のした方を覗いた。
そこには男子学生が2人。
1人は悪い噂の絶えないいわゆるヤンキーの猿渡。
もう一方はクラスで目立たないタイプでいわゆるオタクの佐藤くん。
やはりカツアゲの瞬間だ、そう思い覗いていた首を引っ込めてしまう。
何やってんだ僕は。助けに行かなきゃ。いや、僕が行ってどうにかなるのか?先生を呼びに行くか?いや時間がかかりすぎる…天気が良いからって、外でお昼なんか食べるんじゃなかった。
そんなことを考えてる間にも、声が聞こえてくる。
「とんでみろよー、はやくー」
「うぅ、わかったよ…」
そんな声と共にカチャカチャと金属音が聞こえる。
鞄から財布でも出そうとしてるに違いない。そう思いながらも僕は動けないままでいた。
「はい、これで良い?」
「よし、とべ!とべ!」
ん?なんで猿渡はこんなにとばそうとしてるんだ?
ふとそんなことを思い、顔だけ出して覗く。
そこには、見たこともない、おそらくはジェットパックのような機械を身につけた佐藤くんと、やたらと興奮している猿渡の姿があった。
なんだこれ、理解が追いつかないでいる。
機械は轟音をあげ始めた。
そして、佐藤くんの足が地面から浮く。
「おおお!すげぇ!」
興奮する猿渡。一方、佐藤くんは冷静に
「まだまだ、ここからだよ」
そう言ったかと思うと、ものすごい風圧と共に佐藤くんの姿が視界から消えた。
「飛んだ…」
すぐに空を見上げる。
青い青い空には一筋の白線が走っていた。