いるめ

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飛べ

「おい、とんでみろよー」
そんな声が聞こえた。校舎裏だ。
鼻にかかったような特徴的な声。
その声の主に心当たりのある僕は、恐る恐る声のした方を覗いた。
そこには男子学生が2人。
1人は悪い噂の絶えないいわゆるヤンキーの猿渡。
もう一方はクラスで目立たないタイプでいわゆるオタクの佐藤くん。
やはりカツアゲの瞬間だ、そう思い覗いていた首を引っ込めてしまう。
何やってんだ僕は。助けに行かなきゃ。いや、僕が行ってどうにかなるのか?先生を呼びに行くか?いや時間がかかりすぎる…天気が良いからって、外でお昼なんか食べるんじゃなかった。
そんなことを考えてる間にも、声が聞こえてくる。
「とんでみろよー、はやくー」
「うぅ、わかったよ…」
そんな声と共にカチャカチャと金属音が聞こえる。
鞄から財布でも出そうとしてるに違いない。そう思いながらも僕は動けないままでいた。
「はい、これで良い?」
「よし、とべ!とべ!」
ん?なんで猿渡はこんなにとばそうとしてるんだ?
ふとそんなことを思い、顔だけ出して覗く。
そこには、見たこともない、おそらくはジェットパックのような機械を身につけた佐藤くんと、やたらと興奮している猿渡の姿があった。
なんだこれ、理解が追いつかないでいる。
機械は轟音をあげ始めた。
そして、佐藤くんの足が地面から浮く。
「おおお!すげぇ!」
興奮する猿渡。一方、佐藤くんは冷静に
「まだまだ、ここからだよ」
そう言ったかと思うと、ものすごい風圧と共に佐藤くんの姿が視界から消えた。
「飛んだ…」
すぐに空を見上げる。
青い青い空には一筋の白線が走っていた。

7/19/2025, 12:59:05 PM