今を生きる
それは突然に報じられた。
「未曾有の巨大隕石です。滅亡の恐れがあります」
やけに淡々と事実を伝えるニュースキャスターの声に、私は現実味が持てないでいた。
隕石が落ちてくるのは、一年後らしい。思ったよりも長いな、と思った。
今までなんとなく生きてきた。
なんとなく勉強して、なんとなく大学に入って、なんとなく就職して、なんとなく独り身で生きてきた。
なんとなく死んでいくのだ、そう思っていたのにこんな終わり方とは。ドラマチックで良いじゃないか。
あと一年、何をしよう。
ただ考えれば考えるほど、己の何もなさに気づく。
結局、惰性で仕事をして過ごしていた。
そんな折、こんなニュースが目につく。
[三国が協定、隕石に対抗]
あの三つの大国が力を合わせて隕石を退けようというのだ。
そしてしばらく経って隕石が破壊されたことが報じられた。
良かった良かった。人類はまだ滅亡しないのだ。私の人生もまだ続いていく。
そんなことを思いながら明日の仕事の準備をする。
…その手が止まった。
旅に出たい。
漠然とそう思った。
終わりはいつ来るかわからない。自分ではわかっているつもりだった。日々を後悔なく生きようとしているつもりだった。
隕石が破壊されたのを知った時、安堵とは違う、高揚した感情があった。
そうか、私は生きたかったのだ。
自分の生を楽しみたかったのだ。
旅に出よう。もう一度強く思う。
他の誰でもない自分を生きるために。
私の今を生きるために。
7/20/2025, 12:06:23 PM