Love you
「アイラーブユー」
路上ライブ、素人の尾崎豊カバーは面白いほど響かなかった。今どきのさわやかウィスパーボイスはもう見分けがつかない。年季の入ったアコギには白いステッカーが変に浮いていた。選曲だけはいいのになぁ。
去年の夏、君がくれた曲の方がよっぽど響いたよ。
最高にロックすぎて、音が合ってるんだかわからなかったけど。
「……I love you」
試しに歌ってみたりしたけどすぐに恥ずかしくなってやめた。
太陽のような
「◯◯ちゃんって、太陽みたいな人だよね!」
教室は、僕らには狭すぎる。何気ない女子の一言も騒音に聞こえた昼過ぎ。窓際の席、眺めは気に入っているけど、冷たい空気とぬるい空気と蝉の合唱とが混じってどうにも気持ちが悪い。うつむきながら小走りで廊下に出た。
「あれ、また保健室?」
真夏の廊下は暑い。はずだったのに、彼女の声を聞いて、背骨辺りを緩やかに流れていた汗が凍るように冷えた。
「そう、だよ。体調、悪いんだ。話なら後にして。」
「え〜、冷たいなぁ。」
彼女は、確かに太陽だ。遠くから見ているくらいがちょうどよかった。
『うそつき。』
僕の腕を引き寄せて、耳元でささやく。柔らかい金髪が触れて、こそばゆい。
僕だけが知っている、彼女の内側の熱くてドロドロした黒い塊。触れたところが、傷になって腫れ上がっている。
0からの
「君を殺して私も死んで、全部0からやり直そう。」
少女は、笑うような泣くような顔や声や手で、
僕の目をじっと見つめる。偽物の黒い瞳は、その真意を隠そうとする。瞼が腫れたように見えたけど、少し不自然なアイラインのせいかもしれなかった。
「そんなに、うまくいくかなぁ。」
僕の声も揺れていた。でも、わざと大げさに笑ってみたりした。
「最後は、めぐみさんでもパパでもなくて、君の記憶で終わらせたいの。だめ?」
君の甘い声に、僕の負けだと思った。
来世がもしもあるなら、ヒトでも、イヌでも、ネコでも、カエルでも、なんでもいいから、君と同じ星の同じ国で何の心配もなく生まれますように。
三、二、一、、、ぜろっ
10年後の私から届いた手紙
「ねぇ、10年後からの手紙、来た?」
「は?なにそれ。」
大学のサークルで出会った俺の彼女、美月。コイツは噂が好きで、よく変な話を持ってくる。
「10年後の自分から、手紙が届いてる人がいるんだって!」
「またその手の噂かよ。」
「ホントだってばぁ。だってほら……。」
彼女は後ろに組んでいた手を見せた。その上には、手紙。
「ねっ?ふっふっふっ。中身も見ていーよ。」
やけに嬉しそうにニヤニヤ笑っている。
「なんだよ、気持ちわりぃ……。」
恐る恐る手紙を読み始める。
『10年前の美月へ♡』
「頭の悪そうなハート……。確かにお前っぽいな。」
「うるさいっ!余計なことはいいから早く読んでよ!」
『自慢の彼氏と楽しく過ごしてる?
これからも幸せだから安心してね♡
できれば今のうちから貯金は
して欲しいな!!
ぬけてるところもあるからそこが
気がかりだなぁ。まあ、結局人生
を楽しく過ごせてるから、
つらくても大丈夫っしょ!
結婚とかも心配しないでね♡
てゆーことで、このくらいかな!』
「なるほどな。ふっ。あっさい内容だな。」
「なによぉ。それより、結婚だって……!」
「あ〜ね。」
「何その反応!もう!」
彼女は頬を膨らませて走り去ってしまった。
その後、その手紙は多くの人のもとに届いた。筆跡などからも本人らしいものばかりだった。TVやネットニュースになったりもした。しかし、俺のもとに届くことはなかった。
待ってて
ドス。
君の顔から笑顔が消えた。腹部に開いた穴から赤い液体が流れている。青いスーツがどす黒く染まる。君は地面に倒れ伏したまま、ぎこちなく笑った。
「だい、じょうぶだから。」
そうだよね。私達は、みんなのヒーローなんだから。みんなを守らないといけないんだから。待ってて。
「おねーちゃん、がんばって!!」
小さな少年の声援が聞こえる。
必殺技だ!きっと大丈夫。これで負けたことなんてないんだから!
「覚悟しなさい!」
ためていた力を放つ。君の分も込められている気がした。
ドパッ!
決まった?
いや、違う。動かない。足、が。恐る恐る下を見ると右脚の断面があらわになっていた。
「うああああああ」
大丈夫。大丈夫。きっと勝てる。君だって助けて見せる。そのためにはアイツを倒さなきゃなんだ。だから、ちょっとだけ待ってて。待って、て