私の今年の抱負は、白い食べ物を食べないことです。
白い食べ物ってなんだか純粋ぶってて憎たらしいじゃないですか、みなさん感じていることだとは思うんですが。意識高い系っていうんですかね、混ざりものがあってこその真実だとは思いませんか?
例えばお正月ですが、お餅をそのまま食べるのはもってのほかです。お醤油に満遍なく浸したり、隙間なくきな粉をまぶしたりして食べています。
お節の中の蒲鉾は白い部分を削り取り、ピンク色のところを食べました。ピンク色の食べ物もかわいこぶっていて憎たらしく感じたので、三が日過ぎたら絶とうと思います。自分に厳しくありたい。
ご飯は必ず炊き込みご飯にします。食パンは焦げと言っても過言ではないくらいの焼き目をつけます。カルピスはコーラで割ります。あの飲み物、キューピットって言うんですよ。若い人はご存じないでしょうけど。名前がふざけてますね、これも断ちます。
うどんは煮込んで茶色くなったものを頂きます。肉まんは食べませんが、ピザまんは年が明けてからもう4回食べました。寿司を食べたいんですが、これだけはちょっとシャリの処理が難しいです。みなさんのアイディアに期待します。よろしくお願いいたします。
それではみなさん、人に恥じない一年にいたしましょう。
『今年の抱負』
キンキンと冷えた空気で耳が取れそう。私はニットキャップを深く被り直した。
霜のおりた道端の草を眺めながら歩くのが、冬の唯一の愉しみ。冬には放射状の葉を地面に這わせるように広げる植物たちがいる。ロゼットと呼ばれるそれは、彩度を落とした景色の中で、大輪の花のようにも、惑星のようにも見える。
ひとり俯いて歩いては立ち止まって、草を眺めてニヤつく。ニヤニヤに合わせて白い息が漂って消える。
傍目にきっと随分あやしかろろうと思うけど、私の心は地べたの宇宙にあるので、なにも気にしない。
『凍てつく星空』
大事なもの、やわらかいもの、壊れやすいもの。
慎重に持ち運ぶべきものが手の中にあると、手のひらをパッと開いてしまう悪癖がある。
サービスエリアで買った御当地ソフトクリーム。パッ
贈り物の砂時計。パッ
熱々のクラムチャウダー。パッ
やっと組み上がったナノブロックのお城。パッ
ハムスター。パッ
毎回取り返しのつかない事になるのに、やめられなくて困ってる。
『手放した時間』
人の五千円札を盗んだことがあります。
はじめに言っておきますが、窃盗の刑事上の時効は7年なので、もう罪に問われることはありません。
民事に関しては……今は考えないことにします。
中学2年、季節はちょうど今くらいだったと思います。
その日、クラスで一番仲の良かったSちゃんが学校に五千円札を一枚持ってきていました。購買で体操服だったか、学校指定のスポーツバッグだったか、とにかく何かを買うつもりで、親に貰った五千円札を通学リュックの一番底に入れていました。五千円札は白っぽい封筒に入っていました。
Sちゃんに五千円札の事を聞かされた時には、まさか自分がそんな事をするだなんて思ってもみなかったんです。
私は4時間目の体育を、生理痛が重いからと言って見学しました。体育の授業が終わり、クラスの皆が更衣室で着替えている間に、私はひとり先に教室に戻ったんです。誰もいない教室に。
そしたらSちゃんのリュックがロッカーからはみ出して、落っこちそうになっていたんです。Sちゃんはちょっとがさつなところがあったから、きちんとしまえて無かったんだと思います。
私はそれをなおしてあげようとして、触りました。その瞬間に体がゾワっとして、どうしても、どうしても、Sちゃんの五千円札が欲しくなってしまいました。
私は素早くリュックの底から封筒を取り出して、スカートのポケットに押し込み、トイレに行きました。
封筒は小さく丸めてトイレットペーパーでくるんで、個室の汚物入れに捨てました。五千円札は、畳んでポーチの中の、ナプキンの包装の隙間に入れました。
こうしておけば、もし騒ぎになって持ち物検査されても見つからないと思ったからです。(担任は三十路の男だったのでさすがにナプキンは開けない)
昼休みになって、購買に行こうとした佐奈ちゃんが五千円札の無くなっていることに気付いて、慌てていました。
そのころSちゃんに、すごくちょっかいを出す男子が居たので(小突いたり、暴言を吐いたりしていた!)Sちゃんはそいつを疑っていました。
私も絶対あいつだよ、と言いました。
Sちゃんはそいつを問いただしましたが「はぁ?意味わからんし」と言い返されただけでした。
私は今の言い方かなりあやしいね、とSちゃんに言いました。
Sちゃんはかなり落ち込んでいたけど、お金を置きっぱなしにした自分も悪かったのかも……と言って、先生に報告はしませんでした。揉め事を大きくしたくなかったみたいです。
Sちゃんは次の日にあらためて親から五千円貰い、購買で買い物をしていました。
私は家に帰ってナプキンの包装から五千円札を取り出して、漫画の本に挟みました。
そのまま五千円札を使うことはありませんでした。
何年かあとに、わざと五千円札を挟んだまま、他の漫画とまとめてブッ◯オフに売ってしまいました。
自分の中の罪滅ぼしに、Sちゃんが好きだった漫画に五千円札を挟んであげました。
このことは今まで誰にも打ち明けたことがありませんでした。
このアプリで文章を書くようになって、なんだか心が開かれていくような不思議な気持ちになり、初めて私は私の罪を告白することにしました。
あの日、罪を冒した私は、真っ暗な気持ちになり、もう未来なんて見えないと思いました。
ですが私はこうして生きて、自分の娘に「人の物を取ってはいけません」と教えたりしているのです。
Sちゃんは今、どこでなにをしているのでしょうか?
幸せでいてくれることを祈ります、心から……。
Sちゃんの親は、Sちゃんが失くした五千円札のことを叱りもせず翌日すぐにまた与えてくれるような人達です。Sちゃんの家はお金持ちでした。きっとご両親に支えられ幸せに暮らしていることでしょう。
Sちゃんの幸せを思い描くと、私はあの時の罪が洗われるような気がしてくるのです。
私は私の中の、ちいさな思春期の私を抱きしめ、未来へ向かって生きていきます、これからも。ずっと。
『見えない未来へ』
「最近、夜道で誰かにつけられている気がするの」
バイト仲間の守永さんが怯えた様子で僕に打ち明けてくれた。
僕はアルバイト先のおもちゃ屋さんでカラーバットを買い、夜道を帰る守永さんを守ることにした。
僕は守永さんを好いているんだ。
守永さんを僕の後ろに隠すように帰り道を歩き始めると、僕らの周囲だけばかに明るい。
光の出どころを探すとなんと、それは夜空の月の仕業じゃないか!
「この月よ!私を毎日追いかけてきていたのは!」
守永さんが泣きそうになっている。
許すまじ、月。
僕はカラーバットをぶんぶん振り回し「もっと近くまで降りてこい!」と怒鳴ったが、月のほうもすこし警戒したのか、微動だにしない。
これじゃあ届かない。困ったぞ。
「良かったらこれ、使って」
守永さんがトートバッグからバドミントンのラケットとシャトルを取り出した。いつも持ち歩いているそうだ。
僕は狙いを定め、月目掛けてシャトルを力の限り打ち込んだ。
シュパンッ!
夜空を切り裂いたシャトルが月の脇腹に突き刺さる。月からしゅうしゅう空気が抜けて、ぺしゃんこになって落っこちてきた。
僕は月をキャッチ。近くで見ると意外と小さい。
守永さんを家まで送っていって、畳んだ月を守永さんのお母さんに渡したら「良かったら一緒に食べていってね」と言われ、僕はもじもじしながら守永さんの家族とホットプレートで月を焼いて食べた。白身魚みたいだった。
月が無くなったその日から夜道がとても暗くなったので、僕はバイト帰り毎回守永さんを家まで送り届けることにした。それで僕らは日に日に仲良くなって付き合うことになった。
月に対しては若干の罪悪感がある。話し合いで解決できた問題だったかもしれない。何かの行き違いがあったのかもしれない。月の言い分も聞いてやれば良かった。でも僕はいま、しあわせだ。
『君を照らす月』