人の五千円札を盗んだことがあります。
はじめに言っておきますが、窃盗の刑事上の時効は7年なので、もう罪に問われることはありません。
民事に関しては……今は考えないことにします。
中学2年、季節はちょうど今くらいだったと思います。
その日、クラスで一番仲の良かったSちゃんが学校に五千円札を一枚持ってきていました。購買で体操服だったか、学校指定のスポーツバッグだったか、とにかく何かを買うつもりで、親に貰った五千円札を通学リュックの一番底に入れていました。五千円札は白っぽい封筒に入っていました。
Sちゃんに五千円札の事を聞かされた時には、まさか自分がそんな事をするだなんて思ってもみなかったんです。
私は4時間目の体育を、生理痛が重いからと言って見学しました。体育の授業が終わり、クラスの皆が更衣室で着替えている間に、私はひとり先に教室に戻ったんです。誰もいない教室に。
そしたらSちゃんのリュックがロッカーからはみ出して、落っこちそうになっていたんです。Sちゃんはちょっとがさつなところがあったから、きちんとしまえて無かったんだと思います。
私はそれをなおしてあげようとして、触りました。その瞬間に体がゾワっとして、どうしても、どうしても、Sちゃんの五千円札が欲しくなってしまいました。
私は素早くリュックの底から封筒を取り出して、スカートのポケットに押し込み、トイレに行きました。
封筒は小さく丸めてトイレットペーパーでくるんで、個室の汚物入れに捨てました。五千円札は、畳んでポーチの中の、ナプキンの包装の隙間に入れました。
こうしておけば、もし騒ぎになって持ち物検査されても見つからないと思ったからです。(担任は三十路の男だったのでさすがにナプキンは開けない)
昼休みになって、購買に行こうとした佐奈ちゃんが五千円札の無くなっていることに気付いて、慌てていました。
そのころSちゃんに、すごくちょっかいを出す男子が居たので(小突いたり、暴言を吐いたりしていた!)Sちゃんはそいつを疑っていました。
私も絶対あいつだよ、と言いました。
Sちゃんはそいつを問いただしましたが「はぁ?意味わからんし」と言い返されただけでした。
私は今の言い方かなりあやしいね、とSちゃんに言いました。
Sちゃんはかなり落ち込んでいたけど、お金を置きっぱなしにした自分も悪かったのかも……と言って、先生に報告はしませんでした。揉め事を大きくしたくなかったみたいです。
Sちゃんは次の日にあらためて親から五千円貰い、購買で買い物をしていました。
私は家に帰ってナプキンの包装から五千円札を取り出して、漫画の本に挟みました。
そのまま五千円札を使うことはありませんでした。
何年かあとに、わざと五千円札を挟んだまま、他の漫画とまとめてブッ◯オフに売ってしまいました。
自分の中の罪滅ぼしに、Sちゃんが好きだった漫画に五千円札を挟んであげました。
このことは今まで誰にも打ち明けたことがありませんでした。
このアプリで文章を書くようになって、なんだか心が開かれていくような不思議な気持ちになり、初めて私は私の罪を告白することにしました。
あの日、罪を冒した私は、真っ暗な気持ちになり、もう未来なんて見えないと思いました。
ですが私はこうして生きて、自分の娘に「人の物を取ってはいけません」と教えたりしているのです。
Sちゃんは今、どこでなにをしているのでしょうか?
幸せでいてくれることを祈ります、心から……。
Sちゃんの親は、Sちゃんが失くした五千円札のことを叱りもせず翌日すぐにまた与えてくれるような人達です。Sちゃんの家はお金持ちでした。きっとご両親に支えられ幸せに暮らしていることでしょう。
Sちゃんの幸せを思い描くと、私はあの時の罪が洗われるような気がしてくるのです。
私は私の中の、ちいさな思春期の私を抱きしめ、未来へ向かって生きていきます、これからも。ずっと。
『見えない未来へ』
11/20/2025, 1:44:46 PM