「最近、夜道で誰かにつけられている気がするの」
バイト仲間の守永さんが怯えた様子で僕に打ち明けてくれた。
僕はアルバイト先のおもちゃ屋さんでカラーバットを買い、夜道を帰る守永さんを守ることにした。
僕は守永さんを好いているんだ。
守永さんを僕の後ろに隠すように帰り道を歩き始めると、僕らの周囲だけばかに明るい。
光の出どころを探すとなんと、それは夜空の月の仕業じゃないか!
「この月よ!私を毎日追いかけてきていたのは!」
守永さんが泣きそうになっている。
許すまじ、月。
僕はカラーバットをぶんぶん振り回し「もっと近くまで降りてこい!」と怒鳴ったが、月のほうもすこし警戒したのか、微動だにしない。
これじゃあ届かない。困ったぞ。
「良かったらこれ、使って」
守永さんがトートバッグからバドミントンのラケットとシャトルを取り出した。いつも持ち歩いているそうだ。
僕は狙いを定め、月目掛けてシャトルを力の限り打ち込んだ。
シュパンッ!
夜空を切り裂いたシャトルが月の脇腹に突き刺さる。月からしゅうしゅう空気が抜けて、ぺしゃんこになって落っこちてきた。
僕は月をキャッチ。近くで見ると意外と小さい。
守永さんを家まで送っていって、畳んだ月を守永さんのお母さんに渡したら「良かったら一緒に食べていってね」と言われ、僕はもじもじしながら守永さんの家族とホットプレートで月を焼いて食べた。白身魚みたいだった。
月が無くなったその日から夜道がとても暗くなったので、僕はバイト帰り毎回守永さんを家まで送り届けることにした。それで僕らは日に日に仲良くなって付き合うことになった。
月に対しては若干の罪悪感がある。話し合いで解決できた問題だったかもしれない。何かの行き違いがあったのかもしれない。月の言い分も聞いてやれば良かった。でも僕はいま、しあわせだ。
『君を照らす月』
11/16/2025, 11:28:47 AM