部屋に入ると立派なかまくらが出来ていた。
「どうなさいました」
明るい室内。閉め切られたカーテン。
なんでもないと、くぐもった声。
「お熱がありますか」
……いいや。
「横になられたほうがいいですよ」
もそもそと、分厚い壁がベッドの上で崩れてゆく。
毛布。
クッション。
布団。
まくら。
やがて現れた部屋の主。
積もった雪宿から、ぼんやりした目元のみ。
……外を見てもいい?
どうぞ。
遮断された夜のカーテンをひらけば当然、
聴こえては来ないはずの。
鈴の音。
話し声。
吹き消される湯気。
普段は口にしない甘さと。
笑い声。
包装紙が手渡され。次から次へと、
点灯の色が変わり。
「庭に出たい」
「いけませんよ、こんな熱で」
「箒が要るんだ」
部屋着のまま外に出て、歌いながら、歩道に積もった雪を掃く。通りかかった人々は物珍しそうに眺め、ときには立ち止まる子もいたり。
「……お水を持ってきますね」
音もなく閉じられてゆく部屋のドア、
外の景色に挟まれて、
少年はのぼせた息をつく。
ベッドまわりの雪が溶け出した。
寒気はおさまらない。
ふかく埋もれながらも、少年は箒にまたがって街を見下ろし飛んでいた。
【雪】
干渉どころか関与もされない
限りなく素晴らしいばしょなのに
にんげんといるのが苦痛になって
もう頭の中とも話したくない
人生には距離がひつよう
歩くきょりと想うきょり
だけど不離一体の君こんな時ほど語る君
日記をかいてよ後で読むから
口実つけてよ明日にするから
人生には時間がひつよう
限りなく恵まれたほしなのに
環境音さえ
ひとに感じて
束の間
息をとめるのは簡単で
君をひきつれるのも
簡単だった
【君と一緒に】
「お外に出てみませんか」
「…………」
こんな底冷えのする日に、どうしてまた、わざわざ俺なんぞを誘うのか。そんな考えが頭をかすめたが、ウメの口元結んだ姿に負ける。
突っぱねたところで得があるわけでもなし、きっとウメはしょげて家に残るだろし、そうなりゃ俺も居心地が悪くなって、「やっぱり用を思い出した」などと口走り、ウメの手取って杖つくんだな。
お梅の言うこと笑うこと、なんでも良いもんに繋がってる。
引き戸開ければ、よおく判った。
「はあ澄んだ空気よな」
「ふふ」
そうでしょうと誇らし気な梅。
ああ良いもんだ。俺がこれ見て、隣歩いて。支えられて、ゆくらゆくらと。
ウメ御前、ほんとに今空のようだなあ。
「ほらみてください」
なにが楽しか、よくある花々の、咲き具合にすら笑ってやがる。
比べて俺のジメジメした性根といえば、草履を引きずる跡にも出てら。
【冬晴れ】
ぽちぽち 打っては
これじゃないなって
かんがえるほど遠ざかって
いまのじかんは幸せかな?
ひとからみれば幸せかな?
書き出してみた時期もあるけど
それらはとっくに分かっていたし
常にボヤけてみえるのは
すぐに心が吸収するから
つまり幸せとは
と言い切らなくても
たしかな存在をここに認める
【幸せとは】
天の使いはねむらない。
古くから伝わるふしぎな話。
ヒトから聞いたいつかの話。
ほかにも瞼をひらかず地をあるかない話、体温をかくし血がながれない話……
天使は俗世と引き剥がされる。それはヒトがつばさを求めたから。誰もが自由を求めていたから。
片翼をもぎ取られては幻想すら抱けない。
鉛のようなからだを引きずる。
はやく、
あのヒトに伝えなければ。
じくじく熱い血を垂れながす。意識を失い、倒れるまえに。
雲海に身を捧げなければ。
崖下にひろがる遥か彼方、キラリと宝石が浮きあがり、
何だろうと目を凝らせば両の瞳が灼き尽くされた。
【日の出】