確保
【たまには】
子守歌ゆらし
浅い歩幅で
いつでも心に宿るのは
一番星のような
見つけたら消えない光
どこかで跳ねた雫の音
砂浜に寄せては引く波
浅い桃空の
穂波にのって舟をこぐ
はためく横髪 聴こえない寝息
焼け焦げ 瞳の奥
褪せた布切れが 景色が
風が
声が
詩を囁いてくる
いつでも心に宿るのは 深淵のような
目を開けられない暗闇
見つけたら消えない光
【たった一つの希望】
一緒にいたいというので心のなかで付き添った
もう踏み入ることのない母校を遠目に
胸元に飾る花
えにしを結び 断ち切る桜
月日に洗われ汚染された今
もう出会わないほうが良いのだと
君を美化する
【君は今】
雨はやんでいた。
「いつにも増して、お疲れのようですね」
柱の影から不機嫌さを感じ取り、生徒は声をかける。影は揺らめきヒールの靴先がコンコンと鳴った。
「見なさい。昼間はぬくもりを帯びていた芝生が、通り魔に全てやられてしまった」
生徒は裏庭へ目を向けた。
一面に濡れそぼった深緑の葉。
「それは先生がため息をついたからでしょう?」
自習の合間に外気をもとめて来てみれば、よく話題に上がる彼女がいつもの姿勢で腕を組み、ひっきりなしに。上を睨みつけ、下に睫毛を震わせ。
「あの鳥を見てください。枝葉に包まれた木のなかの巣はあたたかく居心地が良さそうですよ」
そうして彼らは遠くの成鳥を観察し始めた。注視する気配を感じ取ったのか、羽ばたくまでにそう時間はかからなかった。
「はぁ、方角がいけませんね」
またしてもため息。
「あの方向には何があるんです?」
「特に何もないでしょう」
首をかしげる生徒には目を向けず、雨上がりの空を。「……最近の子達は朝の情報番組を観ないのですね。聞くところによれば、新聞も読まないとか」
「朝は忙しくて……」
ため息に取って代わるように雲が流され、日を遮る。
「先生?」
「いいえ、改めて考えるとどうでもいいことばかりですね」
床を踵で小突き。「これからまた雨が降ろうと、風が吹こうと」「いつどこで何が起きようとも」
「現状を受け入れなければ。そうでしょう?」
二人の横目がちらりと合う。
生徒が「はい」と。返事だけは良かった。
「自習に戻ります」
「そうですか」
「先生はどうするんですか?」
「気分が乗らないので帰ります」
【物憂げな空】
もしも明日、追いかけてきた女の子が後ろのほうで転んだら、私は道を戻ることができるだろうか。
その子はこう言うのだ――『えへへ、大丈夫! 贈りものを届けにきただけなの』そして麻布の口を縛った袋を取り出す。『困ったとき役に立つよ。ひとりはさみしいと思うけど……がんばってね!』
伸ばされた手の肘、座り込んだ膝はまるく、擦り傷が目立ち、肌の下に薄く血の色が滲んでいる。私は尋ねる。痛くないのか? その子は答える。『慣れっこだから』。
私が中々受け取ろうとしないので、袋はその小さな両手に仕舞われた。
『贈りものはいらない?』
さみしそうな声と表情を浮かべて、その子は私を見上げてくる。その場に私はもういない。
道端にぽつんとその子だけが座っている。
布袋がほどかれ、石畳のうえに数粒、種子が転がり、それらは陽の光を浴びて瞬く間に芽を出した――『命はいらない?』蔓はあらゆる方向に伸び、天にのぼる先もあれば地を這い土に潜る先もある。何を目指し、背を伸ばすのか、だれもきっと教えてはくれない。
『私たちはいつだって傷のなかから芽を出すの』――『新しい命は尊いものかな?』――『無自覚に傷つけて罪に問われないのは不透明な罰を与えているみたい』
――私は振り返らず、それを遠い場所から聞いている。
【小さな命】