雨はやんでいた。
「いつにも増して、お疲れのようですね」
柱の影から不機嫌さを感じ取り、生徒は声をかける。影は揺らめきヒールの靴先がコンコンと鳴った。
「見なさい。昼間はぬくもりを帯びていた芝生が、通り魔に全てやられてしまった」
生徒は裏庭へ目を向けた。
一面に濡れそぼった深緑の葉。
「それは先生がため息をついたからでしょう?」
自習の合間に外気をもとめて来てみれば、よく話題に上がる彼女がいつもの姿勢で腕を組み、ひっきりなしに。上を睨みつけ、下に睫毛を震わせ。
「あの鳥を見てください。枝葉に包まれた木のなかの巣はあたたかく居心地が良さそうですよ」
そうして彼らは遠くの成鳥を観察し始めた。注視する気配を感じ取ったのか、羽ばたくまでにそう時間はかからなかった。
「はぁ、方角がいけませんね」
またしてもため息。
「あの方向には何があるんです?」
「特に何もないでしょう」
首をかしげる生徒には目を向けず、雨上がりの空を。「……最近の子達は朝の情報番組を観ないのですね。聞くところによれば、新聞も読まないとか」
「朝は忙しくて……」
ため息に取って代わるように雲が流され、日を遮る。
「先生?」
「いいえ、改めて考えるとどうでもいいことばかりですね」
床を踵で小突き。「これからまた雨が降ろうと、風が吹こうと」「いつどこで何が起きようとも」
「現状を受け入れなければ。そうでしょう?」
二人の横目がちらりと合う。
生徒が「はい」と。返事だけは良かった。
「自習に戻ります」
「そうですか」
「先生はどうするんですか?」
「気分が乗らないので帰ります」
【物憂げな空】
2/25/2026, 4:14:49 PM