どうでもいいことが頭の中を、ぐるぐると。
浮かんでは繋がらずに消えてゆく。
本当に行きたいところへ足が向かない。
『寄り道するのも良いもんだ』
面白いことに出会うから。
あの人が云っていた通りには、なかなか。そう上手くはいかないもので。
『何も考えずに進むまで』
人生に石橋を叩く暇も無い。
あの人がつぶやいた真理にも、なかなか。たどり着くには長すぎる。空を仰いで。
……目を細める。
遠く、飛び石の隙間。
天使の梯子が降りている。
「ぼーっと突っ立って、なぁに考えてるの」
向こうから翠色のうちわ片手に、ぴょいぴょいと。
ゆたりと扇げば神楽鈴。
「ふたつ曲がれば逢えたのに」
ね、なにをかんがえていたの。
いいえ何もと応えておく。ふぅんと関心の途切れる声。
「ほんとうに惜しいのに」
あの橋を渡りましょ。
うちわ指すほう、見落としていた抜け道が。にやりと天使の口元が覆い隠され。
【光の回廊】
自分で思ってるより広くはなかった
最初から容量も決まっているし
せめて目盛りがついていれば対応だってできたかも
そう 気づけなかったことが敗因
日ごろ意識しないでしょう
吸っている空気の重さだとか
計測する機会もなかなか無いし
だから仕方がないって諦めてる
時間は巻き戻せないものだし
ひっくり返しても循環しない
ほら 漏斗口を見上げてみてよ
ドロドロしていて落ちきらないでしょ
【降り積もる想い】
姿見の前で裾をつまむ。
爪先を引いて、もう何度目かの印象練習。
――とっても素敵よ! ほら、やっぱりこの色が似合うでしょう?
叔母の称賛が過ぎっても素直に受けとめられなくて。
次にくる言葉は決まっているから。
――ああ、姉さんにも見せたかったわ……
鏡と写真を見比べる。
棒立ちになれば、途端にうなだれる肩と首。
対して貴方の、気品にあふれた佇まい。
悪気がないのはわかってる。それでも重くのしかかる。
今の娘の姿を見たら、どんな顔するだろう。赤子のままでいられたら、どんなに幸せだっただろうか。
周りの賛辞を真に受けてでも胸を張っていられるように、冷ややかな視線に微笑む努力がいつかは実を結ぶように、
写真の前で一歩下がって礼を尽くす。
脚はいまだに震えるけれど。
「まあ、こんなところにいた!」
「叔母さま」
「探したのよ。もうすぐ迎えが来るはずだから……あら」
――じっとしていて。
すると、からだのあちこちに手が伸ばされ。
編み込まれた髪や襟元、裾のレースや飾り物。引き締められ、整えられ、終いに背中を軽く叩かれ。
「猫背が直ってないわよ」
叔母の動作は手慣れていて、
そしてなぜか、
遠くの日々を懐かしむような優しさがあった。
急かされるまま歩き出す。
今夜もし上手くいかなくても、貴方に報告できる気がした。
【時を結ぶリボン】
「何してる」
「初雪が……」
雨模様を気にするように手のひらをかざして、そんな彼にならって男も隠していた両手をさらして。
「初雪か」
春の綿毛とも区別のつかない、ちいさなちいさなひかり。
別段発光していなくとも、見分けられるのはそのおかげ。瞬くようにちらちらと。
閃くようにぴかぴかと。
現に彼の瞳をみれば、贈り物を授かるようなひかりかたをしている。
「すごい」
どうしたと尋ねる前に、「みてよこれ」と差し出され。
手ぶくろのうえには、ちいさなちいさな晶のもと。
「凄いな」
「すごいです」
「綺麗だな」
「きれいですね」
おそらく以前も二人で見た光景を、交わした言葉をなぞらえる。
あの時はたしか、こうだったか? 男が再度手をかざした。
贈られるひかりはちらちらと乗り、瞬くまに姿を消す。
くくくと彼が笑った。
その暖かく包まれた手のひらを見て、男は口を尖らせ、笑った。
【手のひらの贈り物】
強い思いに苛まれたって いいうたは浮かばないんだって
だれか私に言ってください お前の情緒に関係無いって
邪魔だって追いやられたって被害者面して居座ります
どうか私に言ってください お前の人生に興味無いって
帰り道に浮かびつづける言葉の端々や
涙とともに流れる記憶
うずくまって書き殴るうた
解読不可能でしょうけど何が書いてあるかわかります
翌日には感情だけが残っているから
削る技術が到達地とは 余韻が残れば全て良しとは
評価するに値するにはこの場に居なければなりませんか?
本当は私をみないでほしい
つくったそばから飛び立ってゆく
どうかあの点に目をやって
【心の片隅で】