若くして亡くなった祖父が名付けたんだと。桜の散り始める時期にまた、なんで。もっと季節に合う名にしたらいいじゃない。周りは必死に止めたけど、祖父は譲らなかったらしい。
黒々と染まった和紙に白一文字、飛び出す勢いで書されたと。これ見よがしに掲げては、何も語らず晩年を迎えたとか。
雪見障子から思い出す。
生前積み上げた人望を最後の最後に荒削り、そこまでして祖父が譲らなかったもの。
雪とは祖父のなんだったろう?
私は祖父のなんだったろう。産まれて内心は喜んだのか、疎まれたのか。いくつ季節が過ぎ去ればこの心情も変わるのか。
障子窓から何が見える。思い出には何が映る。
桜とは祖父のなんだったろう。
散り際のもの悲しさと、去り際のみすぼらしさと、宙を舞っては歩を彩る地続きの刹那さと。
【雪の静寂】
年 月 日(☂) :
朝、ねぼうした。先生におこられた。
給食のカレーはおいしかった。おかわりした。
年 月 日(✸) :
みんな同じクラスだった! 神!
はじめてヒゲそったら口のはじが切れたっぽくて、地味に痛い。
年 月 日(★) :
今夜は流星群だって。わざわざ外に出るのめんどいから、もう寝るけど。
年 月 日(✸) :
来年は受験生かー。もっと遊びたい。
数学のテストは意外といい点とれた。
『()内は天気を書く欄ではありません。』
年 月 日( )✸:☂
なんか、どっかから落ちる夢みた。からだバラバラになってて「やば!」っておもったけど、ぜんぜん痛くないし、今思えばそっちのほうがやばかった。
✕✕、ありがとう! ずっと間違えてた。
( )には何を入れたらいい?
『私は✕✕ではありません。()内への記入の必要はありません。』
年 月 日( ) :
また同じ夢見た。すごく高いところから落ちてる。
受験やだな。
ごめん。なんて呼べばいい?
あと、天気はどこに書けばいい?
年 月 日( )☂:
また落ちた。場所は覚えてない。
『天気を書く必要はありません。』
年 月 日( ) :
年 月 日( ) :
雨がふってて寒い
年 月 日( ) :
年 月 日( ) :
まだ落ちてる
年 月 日( ) :
年 月 日( ) :
年 月 日( ) :
『人生を記録する必要はありません。正確に夢の内容を書いてください。』
【君が見た夢】
なにが不安?
言葉にするのもつらい様子。
その顔をよく見せて。
それから溜息。大きく吐いて。
なにか思い出した?
それは走馬灯では懐かしく感じるかもしれないし、
誰の人生にも記録されない虚像でしかないかもしれない。
なにもしたくなくて、ここにいる?
存分に。
身が朽ちるまでいたらいい。
ともに朝日を浴びて化石になって、粒子に還って波に乗ろう。
明日は宇宙へ旅に出よう。
変更線の無いばしょへ。なにを持ってく?
なにが大切?
この際だからおもい荷物は捨てていこう。
旅に不安はつきものだから。
思えば、ここも旅先だから。
【明日への光】
永久恒星なんてどこにもないの
生まれたものは死んでゆくから
探している星は見つからないの
もう望遠鏡にも映らないから
死ぬ瞬間なんて視たくはないの
美しさを求めるのは罪深いから
お母様、みんな死んだら冷たくなるのね
だから永遠を誓うと切なくなるの
星も名付けられる生命だから
【星になる】
「いだっ」
「……何故、こんなところに」
「なぜって転寝日和の午後だから、それも経った今終わったけど」
「助教が涙目になって探してますよ」
「今日は休講だよ」
「経った今決めたでしょう」
「うん」
「先週の課題の、答え合わせなんですが」
「答えのある課題なんて出さないよ。なんにも面白くないったら」
「結局判りませんでした。締切だって昨日思い出して、徹夜です」
「一夜漬けじゃないか。君そういうタイプなのか、面白いね」
「判らないのが正解ですか」
「正解は無いよ」
「すると、鐘は鳴らないのかもしれませんね」
「何故そう考えたのかな」
「基本的に私たちは無関心だから」
「…………」
「それとも教授、貴方は『聴こえなかった』とでも言うんですか?」
「いいや。君の言うとおり、私たちは基本的に無関心で、無責任で怠慢だからね」
「そこまでは言ってません。早く起きてください」
「悪いね。ところで何か忘れているよ」
「なんです」
「君に足首を踏まれたんだが」
「教授」
「うん」
「次の講義に遅れます」
「そのようだね」
「急ぎましょう」
「ここから間に合うかな」
「走れば一分前には着きます」
「……では肩を貸してくれるね?」
【遠い鐘の音】