若くして亡くなった祖父が名付けたんだと。桜の散り始める時期にまた、なんで。もっと季節に合う名にしたらいいじゃない。周りは必死に止めたけど、祖父は譲らなかったらしい。
黒々と染まった和紙に白一文字、飛び出す勢いで書されたと。これ見よがしに掲げては、何も語らず晩年を迎えたとか。
雪見障子から思い出す。
生前積み上げた人望を最後の最後に荒削り、そこまでして祖父が譲らなかったもの。
雪とは祖父のなんだったろう?
私は祖父のなんだったろう。産まれて内心は喜んだのか、疎まれたのか。いくつ季節が過ぎ去ればこの心情も変わるのか。
障子窓から何が見える。思い出には何が映る。
桜とは祖父のなんだったろう。
散り際のもの悲しさと、去り際のみすぼらしさと、宙を舞っては歩を彩る地続きの刹那さと。
【雪の静寂】
12/17/2025, 12:18:31 PM