むぎちゃ

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11/28/2023, 3:58:54 PM

チッチッチッ
 時計が時間を刻んでいく。
「アト、サンフンニジュウビョウデス」
「…なにが?」
「ワタシノバッテリーガキレルマデデス」
 私はいつも一人だった。学校でも、家でも、苦しいときも。
「ダカラワタシヲツクッタンデスヨネ?」
「心を読まないで!」
 そうさ。寂しかったんだよ。だからROBOTならいつも側にいてくれるんじゃないかって、そう思って。
「スミマセン。」

        何も無い時が流れる

「ワタシハカンシャシテイマスヨ」
「何に対してよ」
「ツクッテクレタコトデス」
 なにをアニメみたいなことを言ってるんだ。完全な私のエゴで作られたのがROBOTなのに。
「ソレデモ、ウレシカッタンデス」
 ポタッポタッ
 ぐちゃぐちゃの私の心から雫が零れ落ちる。
「…なにがうれしかったのよ」
 ギイッ
 錆びた音をたててROBOTが微笑む。
「ソレハ…デス…ネ…」
「…ROBOT?」
 ガシャッ
 横たわった金属に霞んだ目を向ける
「ねえ!ROBOT!起きてよ!」
 冷たい鉄のボディを揺らしても反応はない。
「ROBOT…」
 また私は一人になった。
 ピコン
 その音ともにROBOTに文字が表示された。
「キミノモノガタリハマダ」
【オワラセナイデ】#6

11/20/2023, 4:27:53 PM

宝物ってなんだろう
大事なもの?友達?親?恋人?
それとも素敵な思い出?
人によって違うとか言うけど
時期によっても違うんじゃないの
ずっとこれが大事だったけど
今はこっちが大事とか
今までよく見えてたけど
実は違ったとか
でもそういうものは時が立つと
心のなかにぽっとまた芽吹いてくる
そういうのを「宝物」
っていうんじゃないかな
#5 宝物

10/14/2023, 5:13:58 PM

「ほ〜ら!高い高い!」
「キャハハッ!」
 今この子はどんな空を見ているのだろうか。淡い群青色に染まった青空か、はたまた浮かんでは消えていく秋雲が広がる空なのか。
「見てお父さん!」
 小さな指が指した方を振り返ると、そこでは小さな、とても小さな雲がこちらを見ていた。
「あの雲がどうしたんだい?」
「あの雲はね、一人ぼっちなの。」
「ほんとうかい?それは可哀想じゃないか。」
 そう問いかけると、キョトンとした顔で、私の目を覗き込んでくる。そして口を開くと、不思議なことを話し始めた。
「全然かわいそくないよ。だってね、あの子が一人ぼっちじゃなかったらね、あんなふうに空を独り占めできないんだもん。」
「独り占めなんかしたらいけないじゃない。空はみんなのもの、そうだろう?」
「そだよ?だからあの子は独り占めしてるんじゃん!悪い雲に空を取られないようにしてるの。だから…ほら!優しい雲には譲ってあげてるんだよ。」
 たしかに、今まで小さな雲が持っていた空は、それよりもっと大きな雲が盗っていっている。
「僕はね、あの小さな雲みたいになりたい!みんなのものを守れる人になりたい!」
 君ならなれるよ。と私は心の中で思う。
「そのために、今から雲にタッチしてくる!笑」
「いってらっしゃい。頑張って昇るんだ。
 【高く高く】」#4

10/12/2023, 4:09:25 PM

タッタッタッ
 空虚な空間に、僕の足音だけが広がる。
ガラッ
 [1-6]と書かれた扉を開けると、案の定誰もいない。先刻まで人気があったのだが。みんな来るのは遅いのに帰るのは早い。ふと窓の向こうに目をやると、グラウンドで部活をしている人や、向かいの校舎で課外を受けている3年生、下校している人もポツポツと見られる。耳を澄ますと、発声練習をしている放送部と演劇部、風に煽られ音を奏でる木々の声が聞こえる。 
 僕はこの、なんともいえない、強いて言えば「青春」と言うべき雰囲気が好きである。
ギイッ カタッ
 椅子に座ってノートを出す。
シャッシャッ
 シャーペンを紙の上で踊らせ、文字を落としていく。
「模試…お疲れ…様…でした」
 今時、労いの言葉なんてメールで送れば良いのだ。それはわかっているのだが
「ゆっくり…休んでくだ…さい」
 どうしても置き手紙がしたくなってしまった。
「…よし。靴箱に入れて帰るか。」
                【僕の放課後】#3

10/11/2023, 4:20:17 PM

「ただいま〜」
「おかえり〜」
 この呼応がなされるようになったのは今から丁度1年前のことである。籍を入れた二人は心機一転、この家に越してきたのだ。
「今日の晩ごはんは一体何でしょう!」
「んーー…カレー!」
「残念 curry and riceでしたー」
「一緒じゃん!」
 今までずっとこんな愉快な会話が聞こえてきていたわけではない。時には喧嘩し、口を利かなくなったり、仕事の折り合いがつかず、二人が一緒にいれないこともあった。
「そう!見てこの観葉植物。ちみっこくて可愛くない?」
「え、かわいい。そこの窓際においとこ。」
 そういって主人はここに紅葉を色づけたコキアを置きに来た。ふと振り返って外を見ると、そこには暖色にライトアップされた紅い木々が見える。もう秋が街に入り込んできているようだ。
「覚えてるか?1年前の今日、あそこの紅葉の下でなにがあったか。」
「忘れるわけないじゃない」
 妻が枕詞のように返す。
「そうか、それはよかった。」
 全く関係のない私が懐旧の念を覚えてしまう。
「昔話は余興に取っておきましょう。」
「そうだな、それじゃ」
「「乾杯」」
 プシュッといい音を立てて缶ビールが泡を吹き出す。それとほぼ同時に、窓からの秋風が私にあたり爽籟をおこす。私もまたこれから、この場所から二人の物語を見ていくのだろう。この窓の【カーテン】として。#2

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