むぎちゃ

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「ただいま〜」
「おかえり〜」
 この呼応がなされるようになったのは今から丁度1年前のことである。籍を入れた二人は心機一転、この家に越してきたのだ。
「今日の晩ごはんは一体何でしょう!」
「んーー…カレー!」
「残念 curry and riceでしたー」
「一緒じゃん!」
 今までずっとこんな愉快な会話が聞こえてきていたわけではない。時には喧嘩し、口を利かなくなったり、仕事の折り合いがつかず、二人が一緒にいれないこともあった。
「そう!見てこの観葉植物。ちみっこくて可愛くない?」
「え、かわいい。そこの窓際においとこ。」
 そういって主人はここに紅葉を色づけたコキアを置きに来た。ふと振り返って外を見ると、そこには暖色にライトアップされた紅い木々が見える。もう秋が街に入り込んできているようだ。
「覚えてるか?1年前の今日、あそこの紅葉の下でなにがあったか。」
「忘れるわけないじゃない」
 妻が枕詞のように返す。
「そうか、それはよかった。」
 全く関係のない私が懐旧の念を覚えてしまう。
「昔話は余興に取っておきましょう。」
「そうだな、それじゃ」
「「乾杯」」
 プシュッといい音を立てて缶ビールが泡を吹き出す。それとほぼ同時に、窓からの秋風が私にあたり爽籟をおこす。私もまたこれから、この場所から二人の物語を見ていくのだろう。この窓の【カーテン】として。#2

10/11/2023, 4:20:17 PM