白米おこめ

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12/13/2024, 2:43:51 PM

並々と愛を注いだコップを飲んで飲んで飲んで、
半分残った時に愛されているとまだ思えるのか?

「愛を注いで」 白米おこめ

12/12/2024, 10:24:16 AM

後輩は、何でもないふりが得意だった。

嫌味な上司に理不尽に怒られているのを見かけて、
咄嗟に割り込んでは庇ったことが何回かあった。
ほとぼりが冷めた頃、様子を探るように話を聞くと、
彼女は決まって「庇ってもらってすみません」と
申し訳なさそうに笑った。

定時であがりたいだけの人に仕事を押し付けられて、
二人で残業をしている時も彼女は愚痴を言わなかった。
それどころか、「手伝いましょうか」だなんて山積みに
なった自分のデスクを指差して気遣うように笑ってみせた。

いつ聞いても、彼女は決まって「大丈夫ですよ」と答えた。
名ばかりの教育係で、まともな事一つも教えられない自分を
気遣ってくれていることには、薄らと気がついていた。



定時を2時間ほど過ぎた頃、彼女は給湯室で紙コップを2つ手にとった。一つをコーヒーメーカーに置いて、迷わずにブラックのボタンを押す。静かな空間にコーヒーの注がれる音が流れはじめて数秒、彼女はぽつりと声を零した。

間違えた、と。

淹れ終わった後も切れ悪く出続けるコーヒーの滴下を眺めながら、彼女が溜息をつく。もう片方に持っていた空のコップをコーヒーメーカーの横に置いて、机にもたれかかる。

彼女がコーヒーを淹れるところは何回か見た事があるが、好んで飲んでいるのは紅茶だった気がする、と何となくいつもの残業風景を思い出す。自分の僻見もあるだろうが、彼女がコーヒーを淹れる時は、いつも…と、機械に置かれたままの紙コップを懐かしく眺めていると、そのコップを彼女がするりと取り出した。

そうして、ぐ、と一気に煽った。ブラックなんてよく飲めますね、だなんて言われた過去の記憶を疑っていると、飲みきった彼女が思いっきり顔を顰める。にが、だなんて呟いて紙コップをゴミ箱へ捨てる姿に、子供っぽさを感じて面食らう。こんなに負の感情を出している彼女を、自分は初めて見た気がする。見せてくれなかったのか、それとも、単に自分が引き出せなかっただけなのか。こんなの飲んでたら寝不足にもなるなあ、だなんて言いながら口直しだろう紅茶を淹れる姿に、なぜだか酷く心が揺らいだ。すり、と自分の目の下に残っているであろう濃い隈を撫でる。自分に向かって言っている、んだと思った。流石に、自意識過剰ではないと信じたかった。

彼女はそんな事も知らずにティーバッグをゆるゆると揺らして、溶け出していく色を静かに眺めている。濃くなったカップの底からバッグを持ち上げて、コーヒーと同じようにぽたりと垂れる水滴を眺めていた。

「…気づけなかったなあ」

また、ぽつりと言葉を呟く。
その言葉のように、ティーバッグから落ちる水滴のように、彼女の目から涙があふれてこぼれた。

息が詰まる。焦った心のまま、
咄嗟に指先でその涙を拭おうとして、
指がずるりと頬をすり抜けた。

「…本当に、大丈夫だったんですよ」

ぐす、と鼻を鳴らして、彼女が紙コップを掴む。
不安定な力が入って、中の水面がぐらりと揺れた。




何でもないふりが、得意だったのは。


「何でもないフリ」 白米おこめ

12/8/2024, 1:34:58 PM

部屋の片隅に立つ、
貴方のそばに近づく度に心臓が高鳴っていく。
Andante, Andantino, Allegro, Presto.
一歩ずつ、一歩ずつ。
目が合わせられず、ただ貴方の顔をちらりと見ては
目を外して、忙しなくその視界を泳がせて。

まるで自分の眼がレンズになったようだった。
眼の中で動画が流れているような、流れる映像の“枠”が
ないことの違和感だけがずっと残るような。

信じられなくて、夢のようで、よく分からない。

握った手は細く、冷たく、大きくて。
私の着けている指輪が彼の手の肉と私の手の肉で挟まれた、
その感覚だけが現実にあった。
それ以外は全て、幻のようだった。
手を離してすり抜けていくその感覚一つですら、
霧のようだった。

それは部屋の片隅であった話。
内緒話のような触れ合い。ささやかで小さなFermate.

部屋の片隅から離れていく。

andante,and.

「部屋の片隅で」 白米おこめ(遅刻)

geschmackvoll!

12/6/2024, 10:30:11 PM

つんのめって逆さまに落っこちた後。
頭上に広がる蒼の中で、
鰯の群れは優雅に泳いでいた。

横を見れば、沢山のガラスのその奥に
私を見つめる人の姿が見える。
通過列車のような速度で、断続的に見える目。

数十メートルの水槽の中に投げ入れられた鰯。
群れから逸れた鰯。可哀想な鰯。

昼放課は餌やりの時間。
空の鰯の群れにもなれず、
冷たいコンクリートに食べられる迄。

「逆さま」 白米おこめ

12/4/2024, 10:31:23 PM

“日記をつける”というと、
夢日記と、現実の日記の二つがある。

でも、両方つけている人っているんだろうか。
面倒くさいからかもしれないけど、
無意識に人は「どちらが大切なのか」を
考えて、どちらかを切り捨てているのかもしれない。

このアプリは、夢をかける現実の日記。
なんて良いものを手に入れたんでしょうね、私たちは。

「夢と現実」 白米おこめ

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