通勤時に見た、ふたり並んで登校する高校生に
学生時代の自分と彼女の姿を空目した。
君と並んで歩いた時間。
しがらみから解放されて、ただの人となって、
好きな事だけを話せる時間。
駅から学校まで、行きで15分。
帰りは、ちょっとゆっくり歩いて20分。
幸せな時間を挙げるとしたら、
多分こういう時間なんだろうな、と今になって思う。
たまに走って、息を切らしながら乗り込んだり。
目の前で電車を逃して、
駅のベンチでまた次の電車を待つまで喋ったり。
…話し足りないから、早足でも間に合うような電車を
わざと見送ったりして。
いつだって私達は、遮断機が降りる音を聴きながら
電車の音にかき消されないように話していた。
反対方向の電車に乗る君が、電車が来てから、
向こうのホームに行くまでのその数分。
その時間が、数分なのに、惜しい。
今の私にはもう、二度とない時間。
だから、今朝見た学生達のように、
私達がまたあの時に戻れたのならば。
私はきっと、彼女の袖を引っ張って、
最後の電車を乗り過ごすんだ。
もう二度とない時間を、もう少しだけ、温めるために。
「さよならは言わないで」 白米おこめ(遅刻)
むぎゅ。
眩しさに目をつむる音。
眩しさに抱きしめられる音。
そうやって光に包まれている時、
後ろからは影がそっと自分の背中を支えてくれている。
目が灼かれないように、
闇がそっと目の中の色を消してくれている。
光と闇。真逆のようでいて、隣り合う存在。
どちらか一方だけでは成り立たない。存在しえない。
その確約された存在の狭間で、私達は生きている。
産まれたその時から、分娩室のライトに照らされて、
母の胎に影を落としている。
そうやって生きて、死して尚、ろうそくの光に照らされて、
骨壷や墓標からずっと影を落とし続ける。
光だけでは影を生み出せず、影だけでは光を生み出せない。
狭間に何かが、
私達がいるからこそ光と闇は共存できるのだ。
光と闇。それと私たちは、共依存である。
光と闇の狭間で、私たちは存在を維持している。
「光と闇の狭間」 白米おこめ(加筆)
あなたとの距離が近づく度に、
怖くて離れる僕を許してください。
遠くで見つめるくせして、目が合うと
何でもないふりをしてしまう僕を見ないでください。
近づきたいくせに、勇気がなくて
ちっぽけな一歩も踏み出せない僕に気づかないでください。
お願いだから、そんなに近づかないで。
僕は、あなたが近くにいるともうどうしようもないんです。
だから後ろに下がるしか、方法がなくて。
そうやっていつも逃げていたら、
気づかないままあなたと背がぶつかってしまって。
固まる僕に近づいたその距離の分だけ、
また彼女のことを好きになってしまったんだ。
「距離」 白米おこめ
あなたの目尻をそっと舐める犬。
「泣かないで」 白米おこめ
悴む指先で、自販機のボタンを押して、
あたたかい飲み物を取り出す、その瞬間。
「冬のはじまり」 白米おこめ
コンポタはじっくりコトコト派。