※久々すぎて脱線気味かもです。
歩くたびに、地面にたまった水滴が跳ねる。
そんな雨の日だった。
高橋 波花(たかはし なみか)は涙で顔を濡らしていた。
波花の綺麗な唇は紫色に染まっている。
波花は壊れていた。
たまに少し泣いたと思えば、次に見たときには笑っている。
恐ろしいほど整った顔からは想像できない程汚い言葉を呟き、かと思えば美しい言葉をまるで歌のように紡ぐ。
波花が何を思って、どんな行動をとるか。
それは誰にも分からない。
一切、読み取れない。
波花は嫌に悲観的だった。
金持ちで優しい両親のもとに生まれ、綺麗な顔と素晴らしい“才能”に恵まれたのにも関わらず。
傷つきやすく、流されやすく、そのくせ、いつも誰かを非難していた。
他責思考で、自分を自分で下げることは一切しない。
波花に、親友ができることはなかった。
強い風がふいているとき。
それが、誰かの背中を押すこともある。
いい意味でも悪い意味でも。
海の身投げのスポットがあった。
毎年、沢山の人がそこから逝去する。
市はそこを封鎖したが、今もなお、誰かがそこに忍び込むとか。
高さ約30m。
飛び込むのには多大な勇気がいる。
今を生きることよりも、そこに飛び込むことの方が、楽だと言うのだろうか?
波の花が、見える限りのところを埋め尽くしていた。
これじゃあ、そこに誰かがいても、分からない。
誰か
こんがり焼けた出来立てのパンを口に押し込む。
温かくて少し甘い。
中はふわふわで、外はカリカリ。
丁度良い食感で、あっという間にたいらげてしまった。
秋色
「ねぇ、知ってる?」
友達が口を開く。
「何を?」
「いや、なんかさ、ネットで話題になってる、誰かの予言」
「知ってるよ、それくらい。有名な予言者が、一年前くらい前に言い始めたんだっけ」
「…そうだね」
予言者の“予言”。
今、世界中が注目していると言っても過言ではない。
予言の内容は以下の通り。
【世界が何らかの影響で、一年後の午前12時きっかりに滅ぶ】
その予言者が見た夢の中では、時計の針が12時になったと同時に地球が爆発したらしい。
そこで夢から目覚め、夢の中では明るかったことから午前12時だと言い切った。
しかし、世界には時差というものがあるから、実際日本が滅ぶとするなら何時かは分からない。
その予言がSNSに投稿されたのが、丁度、今月の二日後。
つまり、もしも本当に世界が終わるとすれば、後二日しか猶予が残されていないのである。
「本当に滅亡したらどうする?」
面白そうに聞いてくる友達に、馬鹿馬鹿しいと視線を送った。
「特になにも出来なくない?別にお金が増えたわけでも無いんだし」
「夢がないなぁー。見てよ、今日のトレンド。こんなに話題になってる」
「知ってるー!話題になったのって結構最近だよね」
とか言いながらスマホをいじる。
「どっか行く?」
「馬鹿だね。そんな金ないよ」
「いやいや、二駅行って帰ってくるくらいのお金あるよ」
「なにすんのさ」
「そんなん別に、ぶらぶらしようよ。短い人生だったねーって言いながら」
「………そう言えば久しぶりじゃない?」
「なにが?」
「どっか行こうって誘ってくるの」
「あー、そうかな?」
スマホをしまって顔をあげる。
「行く?」
「え?マジ?」
「この時間帯って人いないんだね」
結局電車に乗ることにした。
「こんなもんじゃない?」
車内は誰もいない。
誰も座っていない椅子が哀愁を放っている気がした。
「このまま、なんかの都市伝説みたいに、数年経過したりしないかな」
「あー、話題になってたやつか。確かに」
「でも、世界が滅亡しなかったら、悲しいだけだよね。二人だけ過去の人で」
「世界がなくなってても悲しいでしょ」
「どっちが悲しいと思う?」
「……世界がなくならなかった時」
「分かる」
電車は相変わらず、二人だけを乗せて走っていった。
だんだん日が落ちて、空は茜色に染まっていく。
濃い影を落として、私達二人はただ何をするでもなく、電車に揺られていた。
もしも世界が終わるなら
例えば靴紐がほどけている時。
それを教えてくれる人と過ごしたい。
例えば私が一人の時。
寄り添ってくれる人と過ごしたい。
例えば誰かが一人の時。
寄り添ってあげられる人に私はなりたい。
そうして誰かが気にかけてくれた時。
倍の恩返しができるような人間に成長したい。
靴紐
放課後の美術室。
斎藤 里穂(さいとう りほ)は一人筆を走らせていた。
買ったばかりの真っ白なキャンバスに、絵の具を置いていく。
色を混ぜ合わせ、自分の満足できる色ができた時の高揚感は何物にも代えがたい。
また一つ、キャンバスの上で望んだ色ができる。
しかし、里穂は浮かない顔をしていた。
原因は今日の美術の授業。
美術があった日はいつもこうなる。
里穂はその時のことを思い返していた。
―――――――――――
「今日も上手だね。何をモチーフにしたの?」
美術の先生が話しかけてくる。
里穂はためらいながら答えた。
「リンゴを、モチーフにしました」
里穂の武器は独特な色使い。
だから一見、何を書いているのか分からない。
美術の先生は褒めてくれるが、里穂は自信が持てなかった。
―――――――――――
里穂にはこれと言って胸を張れることがない。
運動も勉強もからっきし。
褒めるとしたら、里穂が書く絵の色使いについて。
構図も陰影の付け方も、まっすぐな線を引けるわけでもない。
里穂はため息をついた。
絵を描くことは好きだ。
とりわけ、色を作ったり塗ることに関して、学校の誰にも負けないと自負していた。
……しかし、だからなんだというのだ。
里穂はいつの間にか筆を手から離していた。
里穂は今17歳。
つまり高校3年生。
進学するか、就職するか、真剣に考えなくてはいけない。
中学の時もそうだった。
ギリギリまで答えを出すことができない。
里穂は今にも泣きそうになった。
家に帰ると、両親が椅子に座っていた。
里穂も慌てて座る。
「どうしたの?」
聞いてみたものの、見当はついていた。
「里穂、進学したい?」
「…進学?」
「お金はあるよ。一応ね」
「……」
里穂は黙った。
しばしの間、沈黙が続いたが、やがて母親が口を開く。
「貴方、昔から塗り絵が好きだったじゃない?私たちも、色々調べてみたのよ」
母親はそう言って、机の上に何枚かの紙を並べた。
里穂は1枚の紙を取り上げる。
「デジタルペインター?」
「それは…専門の学校に行った方がやりやすい職業ね。アニメなんかの色をつける人みたい」
里穂は黙ったまま、しかし、目線はその紙を見つめていた。
「こんな職業があったなんて、知らなかった…」
「どうしたい?」
「……私、これ、目指してみたいかも」
両親はほほ笑んだ。
結局里穂は専門の大学を目指すことにした。
里穂がこの先何になるのか。
答えはまだ、出ていないけど、里穂が買った新品のキャンバスは、すぐに沢山の色で埋め尽くされるだろう。
答えは、まだ