ミツ

Open App

放課後の美術室。

斎藤 里穂(さいとう りほ)は一人筆を走らせていた。

買ったばかりの真っ白なキャンバスに、絵の具を置いていく。

色を混ぜ合わせ、自分の満足できる色ができた時の高揚感は何物にも代えがたい。

また一つ、キャンバスの上で望んだ色ができる。

しかし、里穂は浮かない顔をしていた。

原因は今日の美術の授業。

美術があった日はいつもこうなる。

里穂はその時のことを思い返していた。

―――――――――――

「今日も上手だね。何をモチーフにしたの?」

美術の先生が話しかけてくる。

里穂はためらいながら答えた。

「リンゴを、モチーフにしました」

里穂の武器は独特な色使い。

だから一見、何を書いているのか分からない。

美術の先生は褒めてくれるが、里穂は自信が持てなかった。

―――――――――――

里穂にはこれと言って胸を張れることがない。

運動も勉強もからっきし。

褒めるとしたら、里穂が書く絵の色使いについて。

構図も陰影の付け方も、まっすぐな線を引けるわけでもない。

里穂はため息をついた。

絵を描くことは好きだ。

とりわけ、色を作ったり塗ることに関して、学校の誰にも負けないと自負していた。

……しかし、だからなんだというのだ。

里穂はいつの間にか筆を手から離していた。

里穂は今17歳。

つまり高校3年生。

進学するか、就職するか、真剣に考えなくてはいけない。

中学の時もそうだった。

ギリギリまで答えを出すことができない。

里穂は今にも泣きそうになった。


家に帰ると、両親が椅子に座っていた。

里穂も慌てて座る。

「どうしたの?」

聞いてみたものの、見当はついていた。

「里穂、進学したい?」

「…進学?」

「お金はあるよ。一応ね」

「……」

里穂は黙った。

しばしの間、沈黙が続いたが、やがて母親が口を開く。

「貴方、昔から塗り絵が好きだったじゃない?私たちも、色々調べてみたのよ」

母親はそう言って、机の上に何枚かの紙を並べた。

里穂は1枚の紙を取り上げる。

「デジタルペインター?」

「それは…専門の学校に行った方がやりやすい職業ね。アニメなんかの色をつける人みたい」

里穂は黙ったまま、しかし、目線はその紙を見つめていた。

「こんな職業があったなんて、知らなかった…」

「どうしたい?」

「……私、これ、目指してみたいかも」

両親はほほ笑んだ。

結局里穂は専門の大学を目指すことにした。

里穂がこの先何になるのか。

答えはまだ、出ていないけど、里穂が買った新品のキャンバスは、すぐに沢山の色で埋め尽くされるだろう。


 答えは、まだ

9/17/2025, 9:32:01 AM