中性薬品

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12/30/2024, 10:32:46 AM

 今年の抱負はなんだったっけな?

12/29/2024, 12:09:48 PM

みかんの思い出

 丘の上から林檎が転がってきた。思わず手が伸びたがすんでのところで気がつく。いや、あれは人だ。元恋人だ。ごろごろと無様に転がり落ちていく光景が面白くてけたけたと笑ってしまった。ざまぁみろ!私を振った罰だ!と思ったがあれ?違う。あれは人なんかじゃない、粘土の模型だ。確か小学生6年生の時に作らされた作品。題は将来の自分!だったっけ。大層なことに、私の模型は聴診器を首に引っ提げて、何やら顔色の悪い人物の問診をしている。嗚呼懐かしい。本気で医師を志していた時期もあったっけ。敗れた夢は拾わずにそっと放っておくことにした。と思っていたら、やはりあれは粘土模型なんかじゃなかった。みかんだ……!どこからどう見てもみかんである!今度は躊躇わずに拾った。お腹がすいていたからだ。
 みかんの思い出なんかあっただろうか?

12/29/2024, 5:23:08 AM

 まだ春だと思っていたのに、いつの間にかじっとりと汗が滲んで気付けば長い夏休み。上京して一人暮らしを始めたばかりの大学生は至極退屈そうに天井を見つめていた。うつらうつらと瞼が重くなっていく。
 あれから何時間が経過したであろう。眠りが浅くなりゆく頃、『ピンポーン』というよく聞きなれた音が耳を劈いた。その瞬間、楽園のような夢の世界は壊れ、男は弾かれたように上体を起こす。

「ほんと、時が過ぎるのってあっという間ですね」

 玄関へと急ぎ、まだ寝ぼけた頭を携えたままそっと扉をあける。ココ最近、やたらと人恋しかったらしい男は半袖シャツを着たまま、部屋に来た宅配業者の人に話しかけていた。いやあ、暑い暑い。熱中症にお気をつけ下さいねと労いの言葉を添えつつ。そうしたら、どうだろう。

「貴方こそ、風邪には気をつけて」

まだ若い、けれど手際はしっかりとした宅配業者の男が人懐っこく笑い言葉を返してきた。彼の帽子のつばには、キラキラと光を反射する不思議な白い粉がついている。なんだあれ、片栗粉か?
 男は荷物を受け取ると、どこか腑に落ちないまま再び眠りについた。よく考えても分からない事は考えない方がましであろうという惰性から来ている。しかし、そんな奴だって一定の常識はある。見くびらないでくれよ?再び目覚め、キャレンダーを目にした男は全てを知った。

あっ、冬休み!!!!!!

12/27/2024, 10:32:42 PM

 道端に手袋が落ちていた。赤茶色の毛糸で編まれているごくシンプルな冬の象徴。かなり年季が入ってるのか、黒ずんだ場所が散見される。今拾い上げて洗ったとしても元の輝きを取り戻すことは無いんだろうな。まるで、それは人生であるかのように思った。もう過去には戻れない。良くも悪くも過去の記憶は消すことが出来ない__この手袋の持ち主はそんなしがらみから解放されたかったのであろうか?とちょっと考えを飛躍させてみた。
 寒かったので暖かな部屋に帰ろうと思う。手袋を拾うのはやめた。

2/13/2024, 11:48:49 AM

__桜の咲く季節になったら

此処で, 僕の事を 待ってて 下さい。


 言われた時は,なんてロマンチックな人なんだろう,なんて素直に思った。言い方を間違えたら気障っぽくなってしまう。けれど不思議なことに悪い気はしなかった。


 だが,肝心なことに。やっと凍てつくような辛い冬が終わり,段々と春らしい爽やかな風が己の頬を掠めるというのに…もう彼とは会うことすら出来ない。
 ここ最近,ちょくちょく体調を壊していた彼は,大丈夫…大丈夫,なんて穏やかな口調で私に話しかけては,いつもと同じような笑みをたたえたまま床に伏せていた。そんな彼の気さくな口ぶりから…私はすっかり信じ込んでしまっていた。彼は大丈夫,だって。けれど私の知らぬ間に,実際の病状と彼が私にかける言葉はどんどんと乖離していったらしい。享年,18。これは紛れもない事実である。彼の身体はどんどん蝕まれ,冬を越すまで耐えることが出来なかった。
 嗚呼,いつだって嘘をつかなかった彼が私についてくれた優しい嘘。どうしてあの時,見破ることが出来なかったのだろうか。大丈夫,大丈夫。大丈夫な筈がないのに強い薬を片手にそんなことを述べていた彼は,一体どんな気持ちで最期まで私と一緒に居てくれたのだろう。やるせない。


 桜の咲く季節になったら此処で,僕の事を待っていてください。…これは,生前の彼と最後に約束したことだ。私に優しい嘘を残して去ってしまった彼のことは些か信用に欠けるが,約束事に関しては絶対に破らない,というポリシーを持っていたことは確かだ。だから,彼が私の心の中で生き続ける限り,今でも有効であるということを信じて。

春が来るまでずっとずっと。待ち続けるのだ。

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