まだ春だと思っていたのに、いつの間にかじっとりと汗が滲んで気付けば長い夏休み。上京して一人暮らしを始めたばかりの大学生は至極退屈そうに天井を見つめていた。うつらうつらと瞼が重くなっていく。
あれから何時間が経過したであろう。眠りが浅くなりゆく頃、『ピンポーン』というよく聞きなれた音が耳を劈いた。その瞬間、楽園のような夢の世界は壊れ、男は弾かれたように上体を起こす。
「ほんと、時が過ぎるのってあっという間ですね」
玄関へと急ぎ、まだ寝ぼけた頭を携えたままそっと扉をあける。ココ最近、やたらと人恋しかったらしい男は半袖シャツを着たまま、部屋に来た宅配業者の人に話しかけていた。いやあ、暑い暑い。熱中症にお気をつけ下さいねと労いの言葉を添えつつ。そうしたら、どうだろう。
「貴方こそ、風邪には気をつけて」
まだ若い、けれど手際はしっかりとした宅配業者の男が人懐っこく笑い言葉を返してきた。彼の帽子のつばには、キラキラと光を反射する不思議な白い粉がついている。なんだあれ、片栗粉か?
男は荷物を受け取ると、どこか腑に落ちないまま再び眠りについた。よく考えても分からない事は考えない方がましであろうという惰性から来ている。しかし、そんな奴だって一定の常識はある。見くびらないでくれよ?再び目覚め、キャレンダーを目にした男は全てを知った。
あっ、冬休み!!!!!!
12/29/2024, 5:23:08 AM