一足先に夏が終わった。
必死に勝利を目指し、走り続けた二年半。
苦手な早起きにも慣れて、ぶかぶかだった制服はこんなにも小さくなって。
君の努力をわたしは見てきた。
誰もいなくなったグラウンド。
日が沈んでも、君はずっと見つめている。
焼けた目じりに残る、悔しさのあと。
未だ冷めやらぬ熱をこらえる君の代わりに、飲みかけのコーラから雫が滴った。
【ぬるい炭酸と無口な君】
砂漠のように乾いていた。
煩わしい日常に足をとられ、理不尽は容赦なく照り付ける。
あたりを見回せど、同じ景色が続くだけ。
果て無く続く地獄を前に、何もかも諦めてしまいたかった。
けれど。
見つけてしまった。出会ってしまった。
わたしだけのオアシス。
ステージの上に立つあなた。きらきら。乾いた心を満たしていく。
私の世界にともった、消えない彩り。何にも代えがたいそれが、生きる理由になっていく。
世界の灼熱もこわくない。
その輝きを追いかけていくために――わたしの鼓動は脈を打つ。
【熱い鼓動】
住宅地、十字路、息をひそめて時を待つ。
朝7時27分。
曲がり角の向こうから、もうすぐ君がやってくる。
ここ数週間張り込んだ成果。
君の朝のルーティンも、しっかりばっちり把握済み。
ランニングを終え、朝ご飯を食べて。規則正しく、美しく。
前髪OK。スカート丈も理想の長さ。
身だしなみは完璧に。360度どこから見ても、君の好みのど真ん中。
高鳴る心臓のカウントダウン。
1,2,3――さあ、恋を始めよう。
【タイミング】
約束を交わした。
それは何気なく落とされた。別れ際に手を振る、そんな気軽さとともに生まれた言葉。
絶対だよ、そう答えて。手を振り返したあの日を鮮明に覚えている。
あれからずいぶん時は流れて、僕はすっかり大人になった。
夏休みの最後。
自転車にまたがった君の笑顔が、鮮烈な残響を残している。
ぶかぶかの麦藁帽。日焼けした肌に伝う汗。
あの日と同じように、夏を追いかけられたのなら――。
果たされないままの夢が、僕を今日まで生かしている。
【またいつか】
太陽の矢を受け止める、柔らかな盾。
木漏れ日のもたらす安息の中で、民はしばしの憩いを求める。
今、一羽の鳥が飛び立った。
ゆらり木の葉は手を振って、彼の勇士を静かにたたえる。
どうか無事に、またこの場所で。
【揺れる木陰】