ゆま

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2/3/2024, 5:14:24 AM


 あなたのことを忘れない。
 
 そう思うのは簡単だ。
 誓って、胸に刻んで。そうすればこれからもあなたと共に生きていけるから。
 それでも残酷な時の流れは、心の形を変えていく。
 永劫変わらぬと信じた愛も、痛みも、濁流に押し流されて。過ぎゆく年月に呑み込まれ、泡沫の中に溶けていく。

 忘れぬはずのあなたを、思い出すことが増えていく。
 思い出すことも、難しくなっていく。
  

 そうして散った誓いの数だけ、この花は咲くのだろう。
 
 青紫の花弁は記す。
 誓いがいつしか夢と消えても、忘れまいと願った事実は変わらない。


【勿忘草】

12/16/2023, 3:30:35 PM

 熱が出る。ちょっと嬉しい。
 大人になると、一人で立たなくてはならないから。頑張ることが当たり前で、その上で成果を出さないと誰も認めてくれない。褒めてなんて、当然くれない。優しく頭を撫でて微笑んでくれる。そうして容易く得られた体温が、まるで幻のように遠くなる。
 だからだろう。この特権が、たまらなく嬉しいのだ。
 眠りから覚めた顔を、心配そうに覗き込む。そうして額に差し伸べられる手のひら。いつもより優しく、気遣うような愛情。
 あの頃は得られた、けれど今はもう、遠ざかってしまったすべてが、今だけは全部わたしのもの。
 不安そうな顔をするあなたに、こんなこと言ったら呆れられてしまいそう。だから、この思いは内緒。
 明日になったら、きっと全てが元通り。それまでは、あたたかな愛に甘えていよう。
 
 
【風邪】

12/6/2023, 2:02:25 PM

 落ちる、落ちる、落ちていく。
 重力が私を包み込んで、勢いのまま引き摺り落とす。
 抗うこともできずただ、加速する空気に肌を切られて、果ての見えぬ世界の底へと吸い込まれていく。
 はじめは、やがて来たる終焉を恐れた。けれど、落ちるばかり。いつまで経っても果ては来ない。
 次第に落ちていることにが当たり前になって、刃のような風の音、凍える寒さに慣れていく。逆さまの世界が、私の生きる世界に変わっていく。
 ああ、落ちる前。私はどうやって生きてきたんだっけ?
 考えてももう、思い出せない。どのくらい落ちているのか、どのくらい時が経ったのか、全てが溶けて曖昧になっていく。
 落ちる、落ちる、落ちていく。
 果てへの恐怖はもうない。ただ、終わりの来ない永劫の落下が、まるで罰のように退屈だった。

【逆さま】

6/13/2023, 9:23:35 AM


 道端に咲いた白い花。静かに佇む一輪にそっと祈りを託す。
 
 スキ、キライ、スキ、キライ……

 呟いては摘み取って、花弁がはらはらと舞い落ちる。
 一枚、二枚、重ねていくたび。心は期待と不安に躍る。

 占うのは君の心。素直になれない恋の行方。
 どうかお願い。わたしが君に抱く心。同じものを君も抱いていてほしい。
 すれ違った瞬間、目が合ったのは気のせいなんかじゃなかったと。そう思わせてほしい。

 残す花弁はあとわずか。寂しげな筒状花と目が合って、心がざわめく。
 もし、最後に残るの望んだ答えでなかったら。そんな予感に指が止まる。怖い。けれど、後には引けない。
 目を閉じて、深く息を吸う。
 ゆっくりと吐いて、また向き合う。

 大丈夫。信じてる。
 きっとこの恋は未来に繋がっている。

 スキ、キライ、スキ、キライ……

 ひらり、最後の花弁のこたえは――。


【好き嫌い】

6/5/2023, 2:02:27 PM



 舞い落ちる花びら。笑顔。喝采に、祝福。
 柔らかな日差しにも愛されて、二人は今日門出を迎える。

 参列客に紛れるようにして、私は拍手を送っていた。
 大切な友人。心から幸せそうな、満ち足りた表情。ふにゃりとはにかむようなその笑みに心をくすぐられて、胸の中に愛しさが満ちる。
 おめでとう。小さくつぶやく。素敵な人に出会えて良かった。
 その幸せが永遠のものであることを、心から祈る。
 この気持ちに嘘はない。あなたが幸せなら、私だって嬉しい。

 だから、そう。秘めておく。
 あなたに伝えたくて、ついに伝えられなかった言葉があったことを。

 あなたの幸せを願うから。
 私は静かに、秘密を抱える。


【誰にも言えない秘密】

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