タイミング
あたしの好きな時にだけ、あたしの好きなやり方で撫でて欲しいのよう!
ぷりぷり怒るお猫様に、ごめんごめんと平謝り。
虹のはじまりを探して
雨が上がって綺麗な虹が出た。
何となく詩的な気分になった俺は、ソファーで本を読んでいる彼女に声をかけた。
「ドライブに行こうか、虹の麓まで」
えー、と彼女は顔をしかめる。
「いいよ暑いし。虹の根っこなんて見飽きてるし」
「見飽きたって…」
ふざけた言い草に、俺はちょっとムッとする。
「へぇ、どこで見たって言うんだよ」
「だってうちの田舎じゃ珍しくないもん」
ほら、と見せられた画像には、田んぼの真ん中からにょっきり生えている巨大な虹が写っていて、俺は目を疑った。
半袖
隣のお姉さんは麦わら帽子に首タオル、短パンサンダル。
蝉の声に囲まれて朝から洗車。
ホースの水できらきら虹を作って、愛車のボディを拭きあげたら、上から下まで水浸し。
半袖ワンピースにさらっと着替え、涼しい顔で出掛けて行きます。
何だか素敵。
もしも過去へと行けるなら
大蛤の吐く蜃気楼に魅せられて、海辺の町を離れられずにいる。
蛤が見せてくれるのは、懐かしい風景と二度と会えない人達。
それは優しい愛しい、でも触れることの出来ない夢だ。
「もう来ない」
私は蛤に言った。「変えられない過去を、いくら見たって仕方ないもの」
「いいや、あんたはまた来るよ」
蛤は憎らしく笑う。
「未来が見えてないからね。皆そうさ、ほら」
うつむいた人影がゆらゆらと、砂浜をこちらへやって来る。
一人、また一人。
ああ皆とても疲れているんだ、そんな時代だ。
True Love
遠い昔、黄昏色の目をした竜族の娘が言ったんだ。
約束は嫌い、心を縛ってしまうから。
だから何も約束しないで、いつかを願いにして。
約束は守られなければならないけれど、願いはただ胸に抱いていられるでしょう?
私とあなたの時間は違う。
あなたの願いが消えたなら、そこで幸せになって。
もし願いが苦しいほど大きくなったら、その時は……。
「そろそろ苦しくなったんだよ、俺は」
男は皺の刻まれた顔でそう笑い、全てを捨てて村を出て行く。
功労者で皆の信頼厚く、長でもあった彼が決して妻を娶らなかった理由を、今になって知る。
僕には分からない。
異種に惹かれる気持ちも今さら出て行くことも。
僕には真実愛する人がいて、片時も離れる気はないからだ。
男は若者のような足取りで去って行く。
遠く黄昏の空に、緩やかに飛翔する竜の幻が見える。