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True Love

 遠い昔、黄昏色の目をした竜族の娘が言ったんだ。

 約束は嫌い、心を縛ってしまうから。
だから何も約束しないで、いつかを願いにして。
 約束は守られなければならないけれど、願いはただ胸に抱いていられるでしょう?
 私とあなたの時間は違う。
あなたの願いが消えたなら、そこで幸せになって。
もし願いが苦しいほど大きくなったら、その時は……。

 「そろそろ苦しくなったんだよ、俺は」
 男は皺の刻まれた顔でそう笑い、全てを捨てて村を出て行く。
功労者で皆の信頼厚く、長でもあった彼が決して妻を娶らなかった理由を、今になって知る。
 僕には分からない。
異種に惹かれる気持ちも今さら出て行くことも。
僕には真実愛する人がいて、片時も離れる気はないからだ。
 男は若者のような足取りで去って行く。
遠く黄昏の空に、緩やかに飛翔する竜の幻が見える。

7/24/2025, 2:08:02 AM