もしも過去へと行けるなら
大蛤の吐く蜃気楼に魅せられて、海辺の町を離れられずにいる。
蛤が見せてくれるのは、懐かしい風景と二度と会えない人達。
それは優しい愛しい、でも触れることの出来ない夢だ。
「もう来ない」
私は蛤に言った。「変えられない過去を、いくら見たって仕方ないもの」
「いいや、あんたはまた来るよ」
蛤は憎らしく笑う。
「未来が見えてないからね。皆そうさ、ほら」
うつむいた人影がゆらゆらと、砂浜をこちらへやって来る。
一人、また一人。
ああ皆とても疲れているんだ、そんな時代だ。
7/25/2025, 1:46:17 AM