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7/23/2025, 3:36:29 AM

またいつか

 数年前に断捨離をした。
またいつか着るはずの服、使うはずの道具、読み返すはずの本、手紙、思い出だけで用途のない物たち……いやいや、いつかなんて来ないでしょ!と思って片っ端から処分した。
 でもなぜだろう。無くしたとたん、いつかは外からやって来る。

 二十年ぶりに届いた葉書の差出人は誰?
確かに一時やり取りしていた記憶はあるけれど、朧ではっきり思い出せない。
 こういうマイナーな本を探してて…と知人に相談され、それ持ってた!でも処分しちゃった…と言うの口惜しすぎる。
 新しいジャケットに似合いそうだった、あのインナーはもうない。

 いつかは突然やって来る。
昔親友だった、行方知れずのあの子のことをふと思い出す。

7/21/2025, 12:59:46 PM

星を追いかけて

 まるで流れ星のように、航空灯が夜空を横切ってゆく。
君の乗った便かな、まさかそんなはずはない。
 確かめる術もないまま、心がずっと後を追う。


7/21/2025, 8:57:12 AM

今を生きる

 異世界に転生しませんか?
天使にも悪魔にも見える男に、そう誘われた。
「貴女の人生つまらないでしょう。次は絶世の美女の、凄腕魔法使いなんてどうです?」
 ええと…。私は戸惑った。
「美人の魔法使いになって、異世界で何をすれば良いんですか?」
「それはもう、勇者と一緒に闘ったり、人々を導いたり、王に寵愛されたり」
「それって危険だったり、重い責任があったり、羨望や嫉妬の的になったりしますよね」
「まあ多少は」
「だったらもっとリスクの少ないモブキャラ、例えば村人Aとかになれませんか?」
「はあ?」
 男は呆れて行ってしまった。

 気づけば自転車で側溝に突っ込んでいて、奇跡的に無傷で起き上がると、最初に見えた景色は青く広がる田んぼだった。
 そう、そもそも私はこの世でも村人A
だったっけ。
小さい器と弱い心の、何者でもないその他大勢。
でもそれがダメだとも思わない。
 村人Aはただ懸命に、コツコツ今日を生きましょう。

7/19/2025, 7:49:38 AM

special day

 今日は特別楽しみなお出かけの日。
朝早くから、家族でテーマパークへ行くのです。
 でも少女はずっとモヤモヤしています。
お父さん、お兄ちゃん、お祖父ちゃんまで一緒に行くのに、どうしてお母さんだけお留守番なの?
 みんないじわるだ。お母さんも連れて行ってあげたら良いのに。

 実は家族を送り出した後、お母さんは家でうきうきしています。
夜まで自由な一人の日、自分のためだけの時間をさあどうやって過ごしましょう。
今日は本当は子供たちではなく、いつも忙しいお母さんのためのspecial day なのです。
 みんなにとっての嬉しい一日。
アトラクションが見えてくる頃には、少女の心も踊り出します。

7/17/2025, 1:01:48 AM

真昼の夢

 朝、目覚ましのアラームで無理やり目をこじ開けた。
 昨日も残業だったんだ、さっき眠ったばかりの気がする。
眠い、まだまだ寝ていたい、でも起きて仕事に行かないと。
あと五分、五分だけ目を閉じていよう。

 時計を見たら昼。
俺はゆるく寝返りをうって、うつ伏せになった。
 大遅刻だぞ。慌てないのかって?
ははは大丈夫、きっと俺は俺の夢だから。
本物の俺はあの時起きて、ちゃんと仕事をしながら二度寝の夢を見てるんだ。
 その証拠にほら、体がベッドに溶けて消えてゆく。
おや?デスクの前の俺も消えてゆく。

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