またいつか
数年前に断捨離をした。
またいつか着るはずの服、使うはずの道具、読み返すはずの本、手紙、思い出だけで用途のない物たち……いやいや、いつかなんて来ないでしょ!と思って片っ端から処分した。
でもなぜだろう。無くしたとたん、いつかは外からやって来る。
二十年ぶりに届いた葉書の差出人は誰?
確かに一時やり取りしていた記憶はあるけれど、朧ではっきり思い出せない。
こういうマイナーな本を探してて…と知人に相談され、それ持ってた!でも処分しちゃった…と言うの口惜しすぎる。
新しいジャケットに似合いそうだった、あのインナーはもうない。
いつかは突然やって来る。
昔親友だった、行方知れずのあの子のことをふと思い出す。
星を追いかけて
まるで流れ星のように、航空灯が夜空を横切ってゆく。
君の乗った便かな、まさかそんなはずはない。
確かめる術もないまま、心がずっと後を追う。
今を生きる
異世界に転生しませんか?
天使にも悪魔にも見える男に、そう誘われた。
「貴女の人生つまらないでしょう。次は絶世の美女の、凄腕魔法使いなんてどうです?」
ええと…。私は戸惑った。
「美人の魔法使いになって、異世界で何をすれば良いんですか?」
「それはもう、勇者と一緒に闘ったり、人々を導いたり、王に寵愛されたり」
「それって危険だったり、重い責任があったり、羨望や嫉妬の的になったりしますよね」
「まあ多少は」
「だったらもっとリスクの少ないモブキャラ、例えば村人Aとかになれませんか?」
「はあ?」
男は呆れて行ってしまった。
気づけば自転車で側溝に突っ込んでいて、奇跡的に無傷で起き上がると、最初に見えた景色は青く広がる田んぼだった。
そう、そもそも私はこの世でも村人A
だったっけ。
小さい器と弱い心の、何者でもないその他大勢。
でもそれがダメだとも思わない。
村人Aはただ懸命に、コツコツ今日を生きましょう。
special day
今日は特別楽しみなお出かけの日。
朝早くから、家族でテーマパークへ行くのです。
でも少女はずっとモヤモヤしています。
お父さん、お兄ちゃん、お祖父ちゃんまで一緒に行くのに、どうしてお母さんだけお留守番なの?
みんないじわるだ。お母さんも連れて行ってあげたら良いのに。
実は家族を送り出した後、お母さんは家でうきうきしています。
夜まで自由な一人の日、自分のためだけの時間をさあどうやって過ごしましょう。
今日は本当は子供たちではなく、いつも忙しいお母さんのためのspecial day なのです。
みんなにとっての嬉しい一日。
アトラクションが見えてくる頃には、少女の心も踊り出します。
真昼の夢
朝、目覚ましのアラームで無理やり目をこじ開けた。
昨日も残業だったんだ、さっき眠ったばかりの気がする。
眠い、まだまだ寝ていたい、でも起きて仕事に行かないと。
あと五分、五分だけ目を閉じていよう。
時計を見たら昼。
俺はゆるく寝返りをうって、うつ伏せになった。
大遅刻だぞ。慌てないのかって?
ははは大丈夫、きっと俺は俺の夢だから。
本物の俺はあの時起きて、ちゃんと仕事をしながら二度寝の夢を見てるんだ。
その証拠にほら、体がベッドに溶けて消えてゆく。
おや?デスクの前の俺も消えてゆく。