降ったら土砂降り。
気分は散々で上がる気配もない。
あぁ…何もないな、
ほんと何もない。
あたしには何もないんだ。
大きなため息を吐く。
目を閉じて、精一杯身体中の空気を吐き出して。
吐き出して。
身体のちからを抜く。
飛んでけもやもや。
どこまでも。
何も感じなくなるまで。
空っぽのこころ。
空っぽのあたし。
もう何もない。
まぶたを持ち上げて目の前を直視して。
変わらぬ何もない世界にうっすらと笑って。
この眼に光りを入れる。
そう、何もないんだ。
あたしには、何もないんじゃない。
失うものなんて。
だったら突き進むしかないんじゃない何だって。
降ったら土砂降り最悪で。
傘なんて持ち合わせてないし傘を差し出してくれる誰かも居るわけない。
だったらもう濡れて歩こうじゃないの。
濡れてるうちにいつか晴れるわ。
清々しいくらいに歩いてやろうじゃないの。
いつかきっと、晴れる日も来るわ。
(快晴)
「大好きだよ」
そうやってにっこり微笑んでくる彼は並行世界の僕の恋人、らしい。
らしいと言うのは僕には全然そんな記憶がなくて彼が当たり前のように僕を恋人として扱うから、にわかには信じ難いけど並行世界からやって来たんじゃないかって事で落ち着いた。
あまりにも熱心に愛をささやくから到底嘘を言っているように見えなくて、彼が本当の世界に戻るまで彼の、あっちの僕の身代わりになることにした。
それを容易に決断した自分はなんて迂闊だったんだろう。
「どうした?ぼーっとして」
彼の顔を黙って見つめたまま考え事をしていた僕を心配そうに覗き込んで髪をなでられる。
「なんでもないよ」
そう答えるけど、彼は心配した顔をやめないまま僕のおでこにキスをした。
「なんでおでこ?」
「…いいの?」
彼の恋人であって恋人ではない僕に彼は遠慮する。
「…ほんとにいいの?」
何度も確認する彼の首に腕を回すと、意を決したように顔が近付いて来て深いキスをされた。
何度も何度もやさしく深く。
愛されていいな、って思う。
僕だけど僕じゃない誰か。
「好きだ。愛してる」
やさしく包まれるキスの中、何度も囁かれる愛の言葉。
「お前は?」
その問いに僕は一度もちゃんと返事が出来ないでいる。
咄嗟に言ってしまいそうになるこの想いを、必死に押し込めてせめてもと笑う。
言ったところでどうなるって言うの?
この人は並行世界の僕の恋人。
僕のものであって僕のものではない。
🌏(言葉にできない)
咲き誇ったピンクのそれが吹き上がった風に乗って舞い上がる。
そのなんたる豪華絢爛なことよ。
やわらかな風に包まれて目の前がピンク色に染まる。
あぁ…なんとこの世は美しい。
諦めるのは時期尚早と言うものではないか?
まだまだこの世は捨てたもんでもないかもしれん。
どうだ、共に手を取り移りゆくこの世を歩んでみないか?
ゆっくりと年を刻んでいくのも悪くない。
お前となら何だってやれそうだ。
ひとりでは寂しい。
共に生きてくれないか?
(春爛漫)
彼の行動が問題視されて彼の粛正が実行された日。
彼は敵対する藩から襲撃を受けたという事になっていた。
その実はひっそり自分らの仲間の手によって粛正されたのだ。
僕はそれを知っていた。
そしてその現場にも居合わせても居た。
そう、居たのだ。
何より彼に最期のとどめを刺したのは自分だった。
悩みに悩んだ。
これは本当に必要な殺生なのか彼はまだうちらの組に必要な人ではないのか。
何よりもこの人は自分らの仲間ではないか!!!
深手を負った彼を前に最後の一振りがどうしても上げられない。
そんな僕に彼は笑いながらこう言った。
「こんなんじゃ生き延びたって恥だ。盛大に真正面から切ってくれ」
もう動けない彼は到底逃げ切れない。
それは誰が見ても分かる状況。
それでも…!!!
割り切れない僕は彼を見つめるばかりで動けない。
「俺をやらないと歴史を作れないんだろう?いい国にするんだろう?泣いてばかりいないで顔を上げるんだ」
ぼやける視界の中であの人は楽しそうに笑っていた。
「早くやれ。そんなに長くは意識が持たない」
「でも…!!!」
「お前の刃で死にたいんだ」
息も切れ切れにそう告げる彼はなおも笑って語りかけてくる。
「いい国にしてくれよぉ」
もうぼやける視界で前も見えないまま刀を精一杯振り下ろした。
刀の先から鈍く何かを切り裂く感触が伝わってきた。
いつまでもその感触は消える事はなかった。
彼が辻斬りにあった事。
それが敵対する藩の仕業である事。
それはその日のうちに仲間に伝わった。
これがきっかけで自分らの組の士気が上がった事。
二つに分断されていた派閥がひとつにまとまった結果となった。
その裏では彼をよく思ってなかった人たちが彼が殺生されてよかった、これでよかったのだと囁いてるのも聞いた。
でもね、彼は誰よりもこの国の事を案じていたよ。
僕はそれを知っているし、そしてそれをずっと忘れない。
彼は素晴らしい武士だったよ。
彼はこの国を笑って暮らせる世にしたかった。
少し強引に押し進めようとしただけで、それだけだったんだ。
正しいとは何なのか。
僕はよく分からなくなった。
自分が信じる正義とは。
💙⚔️(誰よりも、ずっと)
永遠を信じないおれに永遠をくれた君。
今日も元気にしてるかい?
おれも元気だよ。
仕事でちょっと離れてるだけだけどもう寂しいよ。
本当はずっと一緒に居たいんだ。
でも仕事しないと生きていけないもんね。
こんな事言うと君はきっと「仕事辞めて俺の側に居ろ」とか平気で言っちゃいそうだから口が裂けても言わないけど。
仕事が終わったら会いに行くからね。
大人しく待っててね。
帰ったらまたたくさん語ろう。
そしてたくさん愛してね。
(これからも、ずっと)