海沿いの会社の帰り道。
辺り一面を真っ赤に染め上げる夕日。
それを何の感情もなく見つめる。
訳もなく涙が出る。
そんな感じ。
足りているはずなのに何か足りていない。
心の隙間を埋める何か。
オレンジにあたしを染め上げるその夕日がすごく綺麗でそして、とても物悲しかった。
あたしはなにを欲しているのだろう。
あたしはなにをしたいのだろう。
あたしはなにを…。
ううん、そんな事はどうでもいい。
お願い、
誰かあたしを抱きしめて。
そして「大丈夫」だと言って。
(沈む夕日)
横からの刺さるような視線に耐えきれなくなって恐る恐る隣りの彼を見る。
「なに?」
「君の目って…」
真っ直ぐ見つめて何を言うのかと思ったら
「アーモンドチョコみたいだね」
と少し間を開けてにっこりと笑ってそう言った。
「お前がそう言うと本当に抉り取られて食べられそうで怖い」
「何だよそれ」
冗談のつもりで言ったのに。
その後に続いた言葉に凍りつく。
「本当にやっていいならとっくにそうしてる」
すっと伸びて来た手が俺の頬に触れる。
「それは本当に遠慮してください」
さり気なく後ずさる俺から手を離すと
「えー残念だな」
うっすらと笑って名残惜しそうに呟いた。
「本当に美味しそうなのに」
その顔があまりにもきれいに笑うから。
とりあえず凝視出来なくなったのでその顔を明後日の方向に押しのけといた。
(君の目を見つめると)
「それでいいよ」
なんて適当に相槌打つから腹が立ってその指差した指をつかんで引き寄せた。
「それでいいじゃなくて、それが!いいね!!」
突然のおれのキレた様子にちょっと呆気に取られた様子の彼はふっと軽く笑って。
「ごめんごめん。それがいいよ、それでお願い」
おれの頭を撫でた。
「ワカレバヨロシイ!」
それだけで機嫌が治ってしまう自分もなかなか適当な性格をしている。
ことばの選び方って大事だ。
ほんの些細なことでもちゃんと向き合っていきたい。
いつだってきみと心地よい関係で居たいのだ。
(それでいい)
「はっぴばーすでー!!」
勢いよくドアを開いて遠慮なしにドタドタ入って来るコイツは10何年になるだろうおれの友だち。
1番近いおれの友だち。
いきなりの侵入者に驚いて振り向くとその手には大きなケーキが乗っていた。
思わず怒るのを忘れて笑ってしまう。
「何それどーした」
「何ってお前の誕生日だろ。さぁさぁロウソク消して消して」
目の前に差し出されたその大きなケーキにはすでに火が灯されていて白いケーキの上でゆらゆら揺れていた。
「お前…それ点けて入って来たの?普通に危なくね?」
「上手に持って来たから大丈夫!」
謎の自信と共にさらにおれの顔に近付けてくる。
「ロウソク消してお願いして」
炎の先でアイツが笑う。
そっと回し吹くようにしてすべてのロウソクを消した。
「はい!おめでとー!!」
どこから取り出したのかフォークを突き刺してひと口分のケーキを上手に切り抜く。
それからおれの口元に運んで来てにんまり笑う。
「いいよ自分で食べれるから」
「いいからいいから」
コイツは1度やり出すと聞かないので大人しく口に含んだ。
甘い風味が口の中に広がる。
「…美味しいよ」
「それならよかった」
満足したように笑ってテーブルの上にケーキを乗せた。
「お前は食べないの?」
「あぁ!後でまた一緒に食べよう」
入って来ると同時に足元に置かれていた紙袋をガサゴソしながら応える。
「あとコレ、プレゼントな!」
にこやかにその沢山の紙袋を目の前に差し出して来る。
それを受け取って中を覗くと色んなものが入っていた。
「こんなにいいのに…」
「俺があげたかったからね!他にも何か欲しいものあったら言って」
「もう充分だよ」
「まだまだ受け付けてるよ?」
にこにこと微笑みながら尋ねてくる。
「んーじゃあ…お金ちょーだい」
ふざけてそう言うと彼は一際笑って
「ふざけんな」
と言った。
何でもいいって言ったじゃないか。
まぁ冗談だけどね。
本当に欲しいのは1つだけ。
「そーいえばさっきはなんてお願いしたの?」
「ないしょ」
曖昧に笑って答えた。
願いなんて決まってる。
この先もずっとお前の側に居れますよーに。
病める時も健やかなる時もお前とずっとずっと共に。
願いなんてこれしか思い付かないよ。
🐯🐵(1つだけ)
「大切なものはひっそりしまっておかなければならないよ。じゃないと誰かに取られてしまうからね」
誰だかその昔そんな事を言っていた。
本当に閉じ込めて誰にも見せれなく出来たらどんなにいいか。
俺はキレイなものが好きだ。
だから男でも女でも関係ない。
ある日突然、俺の前に現れたあいつは女の姿をしてた。
前を通り過ぎるあいつに目が惹きつけられて思わず声を掛けていた。
今思うと一目惚れだったのだろう。
あいつも俺の誘いに乗ってきてその足でバーに向かった。
軽く飲むつもりが楽し過ぎて飲み過ぎてそのままの流れでホテルになだれ込んだ。
あいつが男なのは飲んでる時に聞いた。
普通は隠しそうなものなのに潔い。
そこも気に入った。
ホテルに入っていざ行為に及ぼうとしたその瞬間「ごめん!!」と突然拒否された。
あいつは自分のマイノリティに悩んでた。
自分を着飾るのは好きだ。
だけど恋愛対象が男なのか女なのか分からなかったそうだ。
もの凄くすまなそうに謝り続けるからこっちも申し訳ない気持ちになって、それから友だちになった。
一緒に過ごしてみると外見は申し分無く好みなのだけど、性格も自分とすごく相性がよかった。
一緒に居て心地良かった。
あれから5年。
今日も俺の隣りできらきらと輝いてる。
「なんだよ」
「なにが?」
「ニヤけてこっち見てて気持ち悪りぃ」
「ごめんごめん。今日も可愛いなぁって」
「当たり前だろ。俺は美しい」
にやりと笑いかけて来る。
「はいはい。お前は世界一美しいよ」
俺も笑いながらそれに応える。
あいつの顔を下から見上げてにんまり笑って。
「あの子とはどーなったの?」
語尾をわざとらしく上げる。
最近気になる女の子がいるらしい。
「どーにもなってないよ!!」
可愛らしく頬を染めてぶっきらぼうにそう言い放った。
あーあー耳まで真っ赤だ。
そいつが恨めしいよ。
こいつの顔を赤くするのは俺でありたかったのに。
「俺でホテルで試したくせに」
「それはごめんて!!」
ポツリと恨めしく呟くと逸らされていた目線がまた俺に戻って来て謝って来る。
「俺は今でも好きだけどねー」
「はぁ?それは嘘だろ」
何で通じないかなー。
なんであの子がいいのかなー。
本当に閉じ込めて俺だけのものにしたい。
それからずっと抱きしめて離さないのに。
でも無理だもんなー。
しまっておくのは難しいよ。
いつまで隣りに居られるのかなー。
隣りに居るあいつの顔をそっと見つめてぼんやり想った。
👠(大切なもの)