「大好きだよ」
そうやってにっこり微笑んでくる彼は並行世界の僕の恋人、らしい。
らしいと言うのは僕には全然そんな記憶がなくて彼が当たり前のように僕を恋人として扱うから、にわかには信じ難いけど並行世界からやって来たんじゃないかって事で落ち着いた。
あまりにも熱心に愛をささやくから到底嘘を言っているように見えなくて、彼が本当の世界に戻るまで彼の、あっちの僕の身代わりになることにした。
それを容易に決断した自分はなんて迂闊だったんだろう。
「どうした?ぼーっとして」
彼の顔を黙って見つめたまま考え事をしていた僕を心配そうに覗き込んで髪をなでられる。
「なんでもないよ」
そう答えるけど、彼は心配した顔をやめないまま僕のおでこにキスをした。
「なんでおでこ?」
「…いいの?」
彼の恋人であって恋人ではない僕に彼は遠慮する。
「…ほんとにいいの?」
何度も確認する彼の首に腕を回すと、意を決したように顔が近付いて来て深いキスをされた。
何度も何度もやさしく深く。
愛されていいな、って思う。
僕だけど僕じゃない誰か。
「好きだ。愛してる」
やさしく包まれるキスの中、何度も囁かれる愛の言葉。
「お前は?」
その問いに僕は一度もちゃんと返事が出来ないでいる。
咄嗟に言ってしまいそうになるこの想いを、必死に押し込めてせめてもと笑う。
言ったところでどうなるって言うの?
この人は並行世界の僕の恋人。
僕のものであって僕のものではない。
🌏(言葉にできない)
4/12/2026, 9:42:20 AM