冬至。

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12/3/2025, 9:33:34 AM

また彼はプレゼントを携えてやってくる。
「だから君ねぇ毎回毎回何か持ってこなくてもいいんだよ?」
嗜めるように言うと彼は訳がわからないと言うように首を傾げた。
「俺はお前からありがとうと言ってもらえるとここの辺りがあったかくなるんだ」
軽く胸をさすった。
「だからありがとうと言え」
愛を与えられないで育った彼は毎回プレゼントの見返りに「ありがとう」を欲しがった。
「…ありがとう」
形式的に応えてやる。
「でもね、すごくありがたいし嬉しいけど毎回貰ってばかりじゃ心苦しいんだ」
「ありがとうと言えばいい」
「うん…でもこう言うのはね、例えばそう…このケーキの入った箱」
中身を取り出して空っぽにする。
「例え中身が入ってなくても君が持って来てくれるだけで嬉しいよ。来てくれるだけで充分なんだよ」
目の前の男は、一層訳がわからないと言う顔をした。
「だからこれはその…気持ちの問題だから。君が会いに来てくれるだけで充分なんだよ」
少しごわついたその髪をそっと撫でる。
まだ納得がいかない顔をしたままの男は、僕の口にケーキを差し出す。
「でもアンタ甘いもの好きだろ?」
苦笑してそのまま目の前に差し出されたケーキをひとくち齧った。
いつかこの愛を知らない男にこの気持ちが伝わるといい。



               📦(贈り物の中身)

12/2/2025, 9:36:41 AM

今日も隣りのベランダからハミングが聴こえる。
壁1枚を隔てて顔も知らないお隣さん。
少し掠れた低音の声。
それがなんとも心地よく、初めて聴いたその次の日からこっそり耳を澄ませている。
いつも大体21時過ぎ。
それに合わせてスタンバイする。
もちろん毎日とは限らない。居るときもあれば居ないときもある。
段々冬支度していく空模様。空気もピンと張りつめて冷たく肌に刺さる。
こっそり開けた窓からベランダに腰掛け手にはホットココア。白い息が見える。今日も寒い。
しばらく寒さにまとわりつかれながらぼーっと目の前に広がる星空を見つめる。
空気が澄んで星がよく見える。
今日も知らない音が空気の間を流れていく。
それに合わせるように目を閉じて身体をゆらゆらと動かす。
彼の歌声に身を委ねる。
風に乗ってほんのりとタバコの匂い。
うっすら目を開けると夜空に白い煙がひと筋流れていた。
濃紺の空間にうっすら白い跡。
静かにそれを見つめる。

1日の終わり。
なんて事ない夜空と冷たい空気と知らないハミング。
それを聴きながら僕はいつも呼吸をするのだ。
今日もお疲れさま。また明日ね。



                (凍てつく星空)

12/1/2025, 9:59:22 AM

                びーえる注意報!



隣りですやすやと眠る彼。
起きてるとすぐちょっかい出してきて暴れるから今もシャツからちらりと白いお腹がはみ出てる。
それを整え、布団を肩まで引き上げてやる。
するともぞもぞと動いて傍らに座っている俺の腰に抱きついてきた。
その髪をそっと撫でる。
こんなに君を好きになるとは思わなかったなぁ。
初めて出会った撮影読み合わせ。
度重なるキスシーンの多さに2人で目も合わせれずに居たのは始めのうちだけで。
数日もしないうちに、無邪気にふざけて絡んでくるからすぐ打ち解けた。
最初は感情表現が豊かでくるくる表情が変わって元気ですごく気が合うな、ぐらいだった。
でもその間に見せる脆さに危うさを感じて心配になったりもして。
見守ってるうちになんか段々と守りたいと思ってしまう自分が居て。
気付くとずっと姿を追ってた。宝物のように優しく優しくしてあげたいと知らずに接してしまってた。
周りにもあからさまに分かるように。
でも撮影では恋人になるとは言え、現実では同性同士だし冗談混じりに口説いてみても笑って否定されてたからそれが叶うとは夢にも思っていなかった。
それでも撮影で交わす熱い抱擁と口付け、甘い言葉で偽りの愛を紡ぐ。
「本当に君は男を愛せないの?」
「一秒でも俺のこと好きだと思ったりしなかった?」
「俺はすごくお前と寝たいんだ」
そこにこっそり本音を混ぜて。
「本気で言ってるんだよ」
目の前で揺れる瞳。困ったように笑う。
想いが溢れて止まらなくて。役に感情を乗っ取られてたかもしれないけど。
日に日に想いは膨れていくばかりで。
毎日のように交わす口付け絡む視線境界線もなく抱き合う。
見つめるだけで甘い空気をまとってしまう俺らに何度も指導が入る。まだそこは仲良くないシーンだよまだだよ。
撮影の合間の他愛もない会話やなんて事ないスキンシップ触れる指先見つめる視線にお互いに熱がこもって来てたのは気のせいじゃないよね。君も同じ気持ちで居てくれないかな。
そんな気持ちで居たある撮影の、抱きついたまま待機のその時にそっと漏らしたきみの言葉。
「この役がとても羨ましいんだ。こいつには彼が居て。最近こんな考えばかり浮かんでくるんだ…」
「ねぇ僕はどうしたらいい?教えてよ」
台詞にはない言葉。それってつまり…そんなまさかまさか。
動揺して信じられなかった。
君も同じ気持ちで居てくれるの?
「あとでホテルで話そ」
その後の撮影はよく覚えてない。

そっとそっと髪を撫でる。
君はくすぐったそうに身をよじる。
「まさかこうして一緒に居られるなんて夢みたいだな」
あの先隣りにいる未来なんて絶対無理だと思ってた。
きっと叶わないと。錯覚だと。
あの激しく甘く過ごした夏を過ぎても俺らの想いは覚めなくて今もこうしてここにいる。
ただただそばに居て笑って。
君が幸せでいればいいと願うよ。
そしてその側でずっと見守りたい。



                (君と紡ぐ物語)

11/30/2025, 9:51:20 AM

君を失って一縷の望みを賭けたポストへの手紙。
そのポストは時空を超えて君に届くという。
今度はその灯火を消さないように。
僕が以前助言した進路を、望まれている養子先に進まないように手紙を書いた。
今度は幸せな人生をなぞって、どうかどうか。
祈るように投函した。
それからは再会を願ってひたすら君を探す日々。
いつまでも待ってる。
だから必ず会いに来て。

あれからどれ程の年月が過ぎただろう。
以前きみと旅をしたその地に今年も僕は行く。
君の好きなアーティストがライブをするよ。
チケットと共にまたあのポストに手紙を送った。
君のもとへ届いているだろうか。
ひとりゆらゆら電車に揺られる。
通り過ぎる色とりどりの景色。
君の好きなチマキを食べようかとしてたら、流れる景色が止まり開いたドアからガヤガヤと賑やかな声が流れ込んでくる。
その中の1人が通路を挟んで隣りに座る。
ふわふわした髪のその彼は。
思わず目を見張る。
よく見覚えのあるその顔は。
ずっとずっと願っていた。
やっと会えた。
不躾に見つめてしまってた僕に彼は不思議そうにこちらを見つめて会釈した。
後ろに座った仲間に名前を呼ばれる。
彼は僕が呼んでた名前とは違う名前で呼ばれてた。
あぁ…前とは違う未来を選択したんだね。
あの時とは違う道を歩んでるんだね。
隣りでお腹が鳴る音がした。
「これよかったら…」
咄嗟に手にしていたチマキを差し出すと
「あぁ…どうも」
戸惑いながらも受け取ってくれる。
「花火…今年は上がるんですね」
車内のポスターには花火大会の告知。
「あれ俺の地元の花火大会なんですよ」
美味しそうにチマキを頬張りながら応えてくれる。
「花火行くんですか?」
あの時は一緒に見れなかった花火。
きっと君は僕のことなんて知らないだろうね。
それでもいつか君の人生に混じり合えたらと思うよ。


今は違う名前で呼ばれてる君。
もうあの名で呼ぶことはないだろうけど。
生きててよかった。本当に、生きててよかった。
おかえり。




               🐳(失われた響き)

11/29/2025, 9:40:20 AM


早く起きすぎた朝。
カーテンを開けたその先の庭の草木は真っ白で。
きっとその上を歩けばシャリシャリと音がするだろう。
「あー今日も元気に寒そうだねー」
ストーブの上のやかんがシュンシュン音を立てて蒸気上るあたしの手にはあったかいコーヒー入りのマグカップ。
外との気温の差に窓ガラスが曇っていく。
「ストーブはまだ早かったかなー」なんて。
ひとりごとを言いながら。
「でも好きなんだよねーストーブ」
その前にしゃがみ込む。
そろそろ冬がやって来る。
寒いのすごく苦手だけど。
防寒しっかりそれから部屋をうんと暖めて。
好きなホットドリンク用意して映画を見ようかなー、それともどっぷり読書?
お部屋時間が楽しい季節でもある。
引きこもりなんて言わせない!
今年の冬は何して楽しもう。



                  (霜降る朝)

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