飛べない翼
「飛べない鳥ってなんで飛べないの?」
「いつも以上にざっくばらんとした質問だな、後輩」
「あ、キーウィも飛べないの? かわいい」
「かわいいの好きだね、姉(あね)さん」
「飛ばなくてもいいから止めたんだよ。でも、ペンギンは泳ぐため、ダチョウは走るため。空飛べなくても奴らにとって必要不可欠なものってのには変わりねーぞ。馬鹿にしないように」
「キーウィは?」
「あいつは完全に羽が退化してるから飛ばない。ないし飛べない」
「外敵がいないから空を飛ぶ必要がなくなったんだって本で読んだ気がする。そのせいで絶滅危惧種になったっても書いてたような……」
「ドードーの二の舞にならないといいな。飛べなくても、姉みたいな奴が守ってくれるからなんとかなるんだろ」
「鳥じゃないけど蚕も飛べないんだよね? それはそうとお蚕様も白くてふわふわでかわいい」
「飛べないからかわいいって思うの?」
「かわいいから飛ばなくたっていいんだろ」
飛べないのか、飛ばないのか。理由はなんであれ、臨機応変っていい言葉と姿勢だよねって思う。空を飛ばなくても大事な役目を果たせるならそれでいいんだよ。
話のオチ? どっかに吹き飛ばされてなくなっちゃったよ。読んでくれた君の肩の力が抜けたなら、どんな小話だって意味あるんじゃない?
(いつもの3人シリーズ)
ススキ
「幽霊の正体見たり枯れ尾花」
「なにそれ」
「幽霊見たと思ったら枯れたススキだった、っていうしょうもない話」
「ふーん。オレたちの話みたいにしょうもないね」
「喧嘩売ってんのか後輩??」
怖いと思っているものも、ちゃんと見れば案外つまらないものなんだよって意味だっけ。スマホの予測変換でもこれが出てくるから、かなり有名な言葉なんだろう。あれ、これ、私のスマホだけかな?
なんでこんな話になったのかと言うと、私の双子の弟が大量のススキを抱えてやって来たからだ。
「どうしたの、そのススキ」
「生えてたから採ってきた」
「そんなにススキ好きだったっけ?」
「いや、別に」
「えぇ……」
「うちにいっぱい飾ってたもんね」
聞いたところによると、ススキは縁起物らしい。稲穂に見立てて神様への奉納品に愛用されていたとか。なるほどなー。どうりで私たちの実家でいっぱい飾ってたわけだ。いやね、うち元々神社だからさ……。
案外、弟も実家が懐かしくなって両手いっぱいのススキを採ってきたのかもしれない。
結局、私と弟と後輩の3人でススキを分けて各々の家(私の場合は下宿先)で飾ることにした。
飾った次の日から、同じ下宿人のひとりが頻繁にくしゃみするようになった。
もしかして:花粉症
(いつもの3人シリーズ)
脳裏
忘れられない記憶って奴、誰しもがひとつやふたつあるだろう。たとえば綺麗な景色とか、時間を忘れるぐらいに楽しかった思い出とか。
「最近だと、山に夜景を観に行ったことかな」
「いいな」
「車のライトが流れてくのとか、じっと観てると面白かったよ」
「夜景をちゃんと観ようと思ったことないな。そういう話聞くの新鮮」
いまじゃ夜景観光士って資格もあるんだってね。ちょっと興味がある。
補足すると独りで行ったわけじゃなくて、アルバイト先の所長と一緒だった。後輩と弟も同じところでバイトをしているんだが、たまたま私と所長で外回りする用事があって、ちょうど暗くなった時間帯だから行ってみるかってことで−−
「出るって話聞いてたから期待して行ったんだけど、空振りだった」
「お前らそういうとこだぞ」
弟に呆れた顔をされた。うん、実は夜景はおまけで私と所長の本命はソッチでした。なにやってんだって苦情は受け付けます。番組終了30分以内まで。
「山ってさ、街灯なくって真っ暗じゃん? そういうのだけで怪現象の噂なんていくらでもでっち上げられるよね。本物ってなると、やっぱ本当の獣道を探すしかなかったか」
「危ないからやめなよ。山側からしても迷惑だから、そういうの」
後輩もドライ……いや待て。山側からしても迷惑ってどういうことだ。じわじわ来る。
「一応聞いてやるけど、どんなのが出るって噂だったんだ?」
「人のなかにログインした瞬間に『入れた入れた入れた』ってはしゃぐタイプの怪異。ちなみに女だけ対象らしい」
「ログインって、そんなネットじゃないんだから」
「女対象ってお前があぶねーだけじゃねえかよ」
そういった思い出も含めて、夜景じゃめちゃくちゃ綺麗だったなーっていう忘れられない思い出でした。
「怪異とか怪現象はなかったけど、帰り道に野生の猪には遭遇したよ」
「「そっちのほうが怖い」」
あんなに大っきいんだね、猪って。
(いつもの3人シリーズ)
意味がないこと
「ふと気になったことがあってスマホで調べてたら、なんかだらだらしちゃってさ。気づいたら何時間も経ってたんだ。ほかにもやりたいことあったはずなのにさ、もったいないことした」
「あー、あるある」
あっちこっち行っちゃってさ、際限なくいじっちゃうんだよね。わかるわかる。
「宿題する時間がなくなったから、諦めて寝た」
「それはちょっとどうかと思うぞ」
先生に怒られることとか明日の自分が困ることより、その時の自分の睡眠欲求を優先したってことだ。一見真面目そうに見える後輩だが、自分の欲求に素直すぎるところがあるから、たぶん不真面目。いや、あえていうなら問題児?
「意味ないよね、あのだらだら時間」
「んー……」
責めたくなる気持ちはわかるけどね。実際、有意義かどうかって言われると、本当に調べ物をしていた時までは間違いないだろうけれど。
「いろんな本読んだ上の受け入りだけど、めっちゃ真面目すぎてつまんないかもだけど、いまの人たちって生産性に囚われすぎてるんよ。そのせいで、いろいろと見落としてると思う」
なんの本だったか忘れたけど。なるほどな、って目から鱗だったはずなのに肝心の本のタイトルを忘れる私よ……。
「つまり?」
「意味ない・もったいないも、本当は意味あった・もったいなくないってこと。君の例でいうなら、なんにも考えない時間が欲しかったんじゃない? それも大事じゃん」
後輩は詭弁だっていうかな。そう思ってチラリと見たけれど、ふむふむとうなずいていた。あ、納得したっぽい。
「でも、まじで意味ないこともあると思うよ」
「たとえば?」
「誹謗中傷」
「急にリアルなんだけどわかる。人攻撃するより自己研鑽するほうが有意義……あ、これが生産性に捉われてるってこと?」
「まあ、それ言われたらそうなんだけど」
それでも、他人を攻撃してカタルシスを得ることに意味があるなんて思いたくない。あくまでも個人の意見。私は絶対にしないと硬く心に誓って生きてるよ。
「後輩、君の意見を聞きたいんだけどさ。うちの弟が最近ランニング始めたんだよ」
「健康的でいいじゃん」
「ジェットババァとタイマン張りたいってのが動機なんだけど、意味なくない?」
「筋肉と持久力つくから意味ある。大丈夫」
(いつもの3人シリーズ)
(ネタをくれた身内ありがとう。またぼちぼち更新していきます)
花畑
「花畑って聞いてなにが思い浮かぶ?」
「ブルーベル」
「ネモフィラ」
「え、青縛り?」
順に後輩、弟の答えだ。普通だなーと嘲るつもりはない。ブルーベルのお花畑もネモフィラのお花畑も綺麗だもん。っていうか、意外と花に詳しいな君たち⁈
「言い出しっぺ。お前はどうなんだ」
「臨死体験談」
「オカルトヲタクは期待を裏切らないね」
「褒めてる? 馬鹿にしてる?」
「俺は呆れてるけど後輩はたぶん純粋に褒めてるぞ」
弟は容赦ない。自分を偽らずに本音を伝えるのはさすがだわ。だてに自由人って言われてない。
だが、なんで私がそれを思いついたのかをぜひとも聞いてほしい。主張させてくれ!
「臨死体験の話を聞くとさ、必ずと言っていいほど綺麗な花畑が出てくるんだよ」
「そうなんだ」
「生き返った人たちがみんな照らし合わせたように語るからさ、あの世とこの世は綺麗なお花畑で区切られてるんだろうね」
「よっぽど綺麗なんだろうね」
「花で死の恐怖緩和させるつもりなのか? ネモフィラ咲いてっかな」
「カスタムできるといいね……」
どうやら弟は単純にネモフィラが好きみたいだ。そこはレモンの花って言わないのね。あんなにレモン好きなくせに。
「もしも好きな花が反映されるんだったらなにがいい?」
「…………曼珠沙華?」
「お前もう喋るな」
(いつもの3人シリーズ)