春恋
春に恋をしても良いのだろうか
こんなにも美しい時期に
こんなにも美しい人に
恋をしてもいいのだろうか
こんなにも夢のようなのに
こんなにも現実的に
恋をしても良いのだろうか
庭でヒヨドリがヒューイと啼く
それは春恋をしていいという意味かな
いけないという意味かな
No.169
未来図
私の世代だと、もう未来図なんて無いんじゃないの?90歳を過ぎたら、残りの人生、行きていくだけで精一杯だわ。
なにしろ、遊び友達がどんどん減っていく。先月、ランチ会をしたと思ったら、今月はそのうちの1人の訃報を知らされる。
私はまだ動けるけど、お友達が足腰を痛めて動けないとかね。この年になると、簡単に転ぶのよぉ。ちょっと足元に落ちていたものを拾おうとしたら、何故か手も付かず頭からいって流血騒ぎ!
これは私も一回やらかしたけどね。ぶったところから腫れ上がって、その内出血が数日経つと顔に降りてきて、すごい迫力になるのよ!怪談の「お岩さん」みたいな感じ。
そんなこんなで、友達ともなかなか会えなくなる。会うとしたら、倒れたっていう連絡を受けて、病院にかけつけたときとか?
もちろん、元気な友達も居るわよ。もう一人になっちゃったけど。あー未来図あるわ。彼女と、お互いの夫が亡くなったら、2人で同じ、ハイクラスの老人ホームに入ろうって約束してる。なかなかそれが実現しないんだけど、私たちの未来図はこれだわ!
No.168
ひとひら
病院に向かうバスに乗っていた
元々の病気の他に、
高い熱が有り、謎の発赤も有りで
満身創痍の気分だった
ふと、視界を白いものが過ぎった
桜のひとひらだった
なんかもうね、涙が出た
バスの上部、換気用の窓が
ほんの少し開いていた
そこから入ったひとひらが
私のところに舞い降りたんだよ!
具合が悪かったからなおさら、
この偶然が嬉しかった
私はこれを丁寧にティッシュに包んで
持ち帰った・・・宝物のように
No.167
風景
夢の中で、私は森のようなところを彷徨っていた。高熱に浮かされた明け方のことだ。悪夢と言えば悪夢だが、逃げているワケでもなく、急いでいるワケでもなく、ただひたすら歩き回っていた。
私はたまに、夢を見ながら「これは夢なんだ」と意識している時がある。逃げている夢の時は「泳ぐみたいに飛べるよ」とか、自分にアドバイス?する時もある。
この彷徨う夢の時も「その大きな樹のところ、隣が白樺の。さっきも通ったよ」
第三者的に俯瞰してみていると、似たような風景でも分かるらしい。この夢、なんだか小さな沼のような湖のような場所に出て、唐突に終わった。目が覚めたのだ。
不思議なことに、あの最後の風景が今も頭に残ってる。
No.166
君と僕
君と僕は、来年結婚することになっていた。5年付き合って、そのうち1年同棲して、やっとプロポーズして結婚までこぎつけたんだ。
それなのに、君は突然事故で死んでしまった。そんなことって、有るんだな。
ショックが大きかったのか、告別式が終わって、彼女の家から帰宅したら、僕は横になったまま起きられなくなった。意識はあるし動こうと思えば動けそうなんだが、脱力したまま起きられない。
君と僕は、結婚するんだったろう?
なぁ、結婚するんだったろう?
悲しくて涙も出ない。
No.165
夢へ!
夢を見ることも出来無かった青春時代。何か言えば、ことごとく「お前には無理だ」「お前になんか出来っこない」と潰されてきた。
それでも密かに目論んでいたことはあった。小説を書きたかった。ワープロも無い時代、原稿用紙に書き貯めた文章を、地元の小さな文学賞に応募した。
奨励賞というトップでは無い結果だったが、親は「小説を書くなんて片輪(注意、差別用語です)のやることだ」と、世間様に恥ずかしいから、受賞を取り下げろ、と言い出した。
結局、それは出来なかったのだが、以来、書くことも禁止された。
禁止されたが、地元のタブロイド版の新聞にエッセイを頼まれたり、タウン誌に連載を頼まれたりして、そういう正式なオファーには、親は弱かった。
夢へ!踏み出した瞬間だった。
結局、その後自分で才能に見切りをつけたんだけどね。悪役を登場させられないという、決定的な弱点に気づいた。悪役が出ると、物語にメリハリがついて面白くなるのに「そんなイヤなこと言わせたくない」「そんな怖いことになったら主人公が可哀想」とか思ってしまって。
No.164