シャイロック

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4/19/2025, 5:30:29 AM

物語の始まり

 物語の始まりは、いつも唐突だ。
 おじいさんとおばあさんが、山で芝刈りしたり川で洗濯したり、貧乏ながら幸せに暮らしているのに、急に洗濯していた川の上流から大きな桃が流れてきて(非力なおばあさんがよく受け止めたと思うが)そこから運命が激変した。
母を亡くしたお姫様は、寂しくてもそれなりに暮らしていたと思うけど、父王が再婚したところから、魔法の鏡も絡み、これも運命は激減した。
 普通の人の普通の恋だって、唐突に始まる。一目ぼれとか、いきなり告白されたりとか?
 極論だが、いきなり舞い込んだ良いことや悪いことを乗り越えた時、人は成長するのだ。事故に遭ったり病気になったりも含めると、人はけっこうな数の、物語の始まりを経て来ている。
 あー私も病気に負けず、頑張らなくっちゃ!

No.172

4/18/2025, 4:01:32 AM

静かな情熱

 その人は、軍人を目指していたが、その静かな情熱を医学にシフトした。
 32歳でドイツに留学し、驚くほどぴったりのバディと出会う。細菌研究の第一人者コッホである。コッホは冷静で的確な判断力を持ち、彼の暴走しようとする情熱をセーブしてくれていたのだ。
 人類はこの2人の出会いが素晴らしいことを感じるだろう。なにしろ彼は36歳で破傷風菌の血清療法を確立し、帰国して伝染病研究所を作った。その後もペスト菌を発見したり、新しい研究所を作ったり、慶応大学に医学部を作った。
 その人は現在の千円札の顔、北里柴三郎さんである。78歳で亡くなるまで研究を続けた、彼の静かな、いや熱い情熱が無ければ、今もっと苦しめられている人が多かったかも知れない。

No.171

4/17/2025, 3:45:47 AM

遠くの声

 「なに?もうダメなの?」
「橋本先生は、今夜が山って言ってた」
「そんなに急にこんなことになるの?」
「うん、先週来た時は、話しして笑ってたんだけどな」
「末期って言われてたから、しょうがないんだろうな」
【えっ、末期だったの?聞いてないわ】
 兄弟が話していることは全部聞こえていた。でも、こうして意識はあるんだけど、目は開けられない。
 そんな状態で、半日ぐらいうとうとしている。
 さっき、夫も駆けつけてきた。
「今夜が山だって?」
「橋本先生にそう言われた」
「おやじさぁ」
「おやじなんて呼ばれるのは嫌だな」
「じゃなんて言えばいいの?パパ?」
「気持ち悪いな。何でもいいよ」
「こんな時になんだけど、いま火葬場混んでるんだって。押さえておいたほうがいいかな」
「おまえ、こんな時に・・・」
「何日も待つのもたいへんだよ。本人も家族も」
「うーん」
「ところでおやじ、例の件、二郎は知ってるの?」
「例の件ってなんだ?」
「おふくろに万が一のことがあっても、平和だけど、おやじにもし急なことがあったら、相続揉めそうじゃ?」
「なんでだよ!」
「何とぼけてんだよ、子どものことだよ、もう一人の。オレが知らないとでも思ってたの?」
【は?子どもですって?】
思わず目が開いた。
ベッドを遠巻きにして男3人のシルエットが見える。
「た、太郎、お前それをどこから聞いたんだ!」
「お父さん、いま、お母さん目を開いたよ」
「二郎、ホントか?!」
「かぁさん、違うんだ。太郎の勘違いだ」
「おやじ、みっともないよ。素直に認めろよ」
【あー本当にみっともない。元々中年以降はお互いに冷めてたし、もうこの世に未練もないわ】
ピピーッピピーッピピーッという音が響き渡った。遠くで呼ぶ声のようだった。

No.170

4/15/2025, 11:59:13 PM

春恋

春に恋をしても良いのだろうか
こんなにも美しい時期に
こんなにも美しい人に
恋をしてもいいのだろうか

こんなにも夢のようなのに
こんなにも現実的に
恋をしても良いのだろうか

庭でヒヨドリがヒューイと啼く
それは春恋をしていいという意味かな
いけないという意味かな

No.169

4/15/2025, 3:11:21 AM

未来図

 私の世代だと、もう未来図なんて無いんじゃないの?90歳を過ぎたら、残りの人生、行きていくだけで精一杯だわ。
 なにしろ、遊び友達がどんどん減っていく。先月、ランチ会をしたと思ったら、今月はそのうちの1人の訃報を知らされる。
 私はまだ動けるけど、お友達が足腰を痛めて動けないとかね。この年になると、簡単に転ぶのよぉ。ちょっと足元に落ちていたものを拾おうとしたら、何故か手も付かず頭からいって流血騒ぎ!
 これは私も一回やらかしたけどね。ぶったところから腫れ上がって、その内出血が数日経つと顔に降りてきて、すごい迫力になるのよ!怪談の「お岩さん」みたいな感じ。
 そんなこんなで、友達ともなかなか会えなくなる。会うとしたら、倒れたっていう連絡を受けて、病院にかけつけたときとか?
 もちろん、元気な友達も居るわよ。もう一人になっちゃったけど。あー未来図あるわ。彼女と、お互いの夫が亡くなったら、2人で同じ、ハイクラスの老人ホームに入ろうって約束してる。なかなかそれが実現しないんだけど、私たちの未来図はこれだわ!

No.168

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