星
タカヒロと夜道を歩くのは初めてかも知れない。いつも、車で行っちゃうから。
今日は仕事の帰りに、たまたま駅で会ったから、こうして同じ方向に歩き出した。
「わぁ意外に星がたくさん見えるね」照れ隠しに空を見たら、星が瞬いている。
タカヒロが、同じく空を見上げながら言う。「なぁ薫、オレさぁ、そろそろ身を固めたいんだ。この先、オレとずっと居てくれる気はあるか?」
まるで、あっちにいくつ、こっちにも見えるねと、星を数えるような、期待と静けさを含んだ
口調だった。
「待ってました!私もずっとタカヒロと一緒に居たい!」
少しおどけて、腕にしがみつく。
とってもいい夜だ。星もたくさん見えたし。
No.134
願いが1つ叶うならば
願いが1つ叶うならば、何がいいだろう。
だいたい、おとぎ話の中では、願い事の選択を間違って、というよりも相手のミスディレクションで選択しそこなって、たいてい悲劇に終わる。
お金がたくさん欲しいと言えば、小銭だけジャラジャラ出てきて、願った本人が埋もれるとか、人の上に立ちたいと言えば、高い塔のてっぺんに取り残されたりする。病気を完治させたいと言ったら、どういう事態になるのだろう?
いずれにしても面倒なことになりそうで、叶えたい願いなどなくなってしまう。
地道に優しく生きていれば、きっと良いことあるよ!
No.133
嗚呼
「嗚呼!」私は天を仰いだ。またか、また失敗だった。このタイムカプセルが私のライフワークなのだが、もう、私も年だ。あまり時間がない。
タイムマシンに乗るよりも、もう少し凝縮した空間(カプセル)に一人ずつ乗ったほうが、時間や場所を正確に合わせやすい、というのが私の議論だ。
簡単な箱みたいなタイムマシンは、既に開発されているが、失敗も多い。目的の時間や場所とまったく違う場所に行ってしまったらしく、それっきり帰って来ない家族とか、未来に行くと言って出発した途端に爆発事故を起こしてしまったり。むしろ、成功した話はあまり聞かない。行った人が秘密にしている可能性もあるけどね、
それでも人は、過去や未来に行きたいらしい。そういった事故をニュースで見ても、懲りずに行こうとする。
だから私は、もっと安価で、正確性のあるタイムカプセルを開発しようとしている。
もう何万回実験したろう?いまこの国の平均余命は178歳だ。182歳になった私の、研究出来る時間は、あとどのくらいだろう?
改修のために1日置いて、またスイッチを入れたものもダメだった。「嗚呼!!!」
No.132
秘密の場所
仕事帰り、誰にも教えてない秘密の場所でコーヒーを飲むのが、私の日課だ。
好きなブラジルサントスを注文して、それを飲むのが楽しみ。程よくお客が居なくて、ゆっくり出来る。親しい友達にも、ここは教えない。いつものようにキャーキャーおしゃべりするような場所ではないからだ。
そこで、スマホをチェックしたり、窓の外を行き交う人を眺めたりして、小一時間過ごして帰路につく。
家が嫌なのではなく、ここで仕事とプライベートの切り替えをする習慣がついているから。
ある日、いつものようにそのお店に行って、いつものようにサントスをオーダーした。届いたコーヒーを口元に持って行った時だ、壁に小さな貼り紙がしてあるのに気づいた。
ん?近づいて見てみると『お客さまへ 長い間のご愛顧ありがとうございました。この度、店主の入院加療のため、この店を閉じることになりました。皆さまにはご迷惑をおかけしますが、どうぞご理解ください』最後に日付と、店主よりと書いてあった。
私は、その場に棒立ちになっていた。
「あー、さおりさん、毎日来てもらってるのにごめんね。この通りだから、もう無理なんだよ」
「残念です。ここに寄るのが仕事終わりの楽しみですから。でも、ご病気ですからしょうがないですね。しっかり治療を受けて、またお会い出来たら嬉しいです」
お店は月末に閉じるという。あと2週間程だ。帰り道の私は、足元がおぼつかなかった。自覚している以上にショックだったらしい。
仕事終わりのコーヒーは、来月からどこで飲もう?私の秘密の場所はどこになるだろう?これからあちこちのお店に寄ってみて、絞り込んでいかないと。見つかるのだろうか。
No.131
ラララ
子どもはパワフルだ。すぐに走り出す。ブランコで遊んでいるので安心していると、正反対の場所の滑り台に居たりする。ワープしているとしか思えない。
そして、だいたいいつも上機嫌だ。眠いときと、ダダをこねるとき意外はね。
さんざん駆けずり回って、遊ぶ時間が終わって帰ろうとすると、「イヤーっ帰らない!まだ遊ぶ!」と泣きわめく。「じゃ、帰ったらピンポンパン観よう!」と言うと、「わ〜い!帰る」ラララと歌い出しながら帰路につく。
喜怒哀楽の切り替えスイッチがすごい。多分、子どもは正直だからだ。イヤなことはイヤ。好きなことはしたい。
大人になったらそうはいかない。いろんなしがらみがあって、思うままに振る舞えなくなる。だから、子どもは可愛いのかも知れない。感情の動きが分かりやすく、裏表はないから。
No.130