シャイロック

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君と僕

 君と僕は、来年結婚することになっていた。5年付き合って、そのうち1年同棲して、やっとプロポーズして結婚までこぎつけたんだ。
 それなのに、君は突然事故で死んでしまった。そんなことって、有るんだな。
 ショックが大きかったのか、告別式が終わって、彼女の家から帰宅したら、僕は横になったまま起きられなくなった。意識はあるし動こうと思えば動けそうなんだが、脱力したまま起きられない。
 君と僕は、結婚するんだったろう?
なぁ、結婚するんだったろう?
 悲しくて涙も出ない。

No.165



夢へ!

 夢を見ることも出来無かった青春時代。何か言えば、ことごとく「お前には無理だ」「お前になんか出来っこない」と潰されてきた。
 それでも密かに目論んでいたことはあった。小説を書きたかった。ワープロも無い時代、原稿用紙に書き貯めた文章を、地元の小さな文学賞に応募した。
 奨励賞というトップでは無い結果だったが、親は「小説を書くなんて片輪(注意、差別用語です)のやることだ」と、世間様に恥ずかしいから、受賞を取り下げろ、と言い出した。
 結局、それは出来なかったのだが、以来、書くことも禁止された。
 禁止されたが、地元のタブロイド版の新聞にエッセイを頼まれたり、タウン誌に連載を頼まれたりして、そういう正式なオファーには、親は弱かった。
 夢へ!踏み出した瞬間だった。
 結局、その後自分で才能に見切りをつけたんだけどね。悪役を登場させられないという、決定的な弱点に気づいた。悪役が出ると、物語にメリハリがついて面白くなるのに「そんなイヤなこと言わせたくない」「そんな怖いことになったら主人公が可哀想」とか思ってしまって。

No.164

4/12/2025, 8:52:30 AM