フラワー
お花のことをフラワーと言うと、ぐっと洋風になる。
「お花」と言うと桜やすみれ、シャクヤクやボタン、アヤメ。「フラワー」と言うと、ジャーマンアイリスや西洋シャクナゲ、蘭を想像してしまうのは私だけだろうか?
そしてお菓子やパンを焼く人は、フラワーと言うと、小麦粉を思い出すことだろう。英語で小麦粉のことをフラワーというが、日清製粉が商標登録を申請してから、実に12年もの時間を要した。
商標登録は、例えば「りんご」で「アップル」というのは認められない。ほかの人がアップル全般を使えなくなるからだ。「アップルジュース」とか「アップルパイ」とかね。
で、日清製粉は、何度差し戻されても頑張って新製し続けた。最後には、特許庁も折れて認めてくれたらしい。
フラワーと言われると、お菓子もパンも焼かないが、こちらの方が私は興味深い。
No.161
新しい地図
その少年は、婿入りした父が、母の死去で、家督は伯父が継ぐことになり、一緒に追い出された。以来、父は転々とし暮らしは豊かではなかった。向学心旺盛だったが、学ぶ機会は無かった。
その頃、酒造所を営んでいる家に、婿養子に入るという話が持ち上がった。妻になる人は3つ4つ年上で、17歳の彼が婿養子に入るまで、夫を病気で2人も見送っていた。
なんとなく不安だが、父の勧めで、名家に1度養子に入ってから、名主で酒蔵のその家に婿養子になった。
少年は、名家に婿入したため、町会長のようなことをしなければならなくて、戸惑ったが、そこで、彼の交渉能力や危機管理能力などが培われた。少年は、40代になり、息子が1人前になったので、家督を譲り隠居した。
彼自身、次々と妻に先立たれ、何人目かの妻を伴って、江戸に居を構えた。そこで、二十歳近く年下の歴史学者を師と仰ぎ、猛然と勉強した。師匠は、暦の大幅改訂を考えていて、それにはもっと深く学ぶことが必要だった。師匠と共に、歴史も天文学も測量も学び、そのことが後の彼の人生に大きな影響を与えた。
そう、彼は伊能忠敬さん。私はもっと若い頃からと思っていたが、なんと56歳から17年かけて、北海道から初めて日本中を測量して回った。彼の作った日本地図は、あの頃の測量技術では考えられないほど、その後の地図に近いという。
今は、国土地理院の地図や、Googleの地図がある。次々と新しい地図が上書きされているが、その根底に彼の努力があったことは、素晴らしいことだと思う。
No.160
好きだよ
君の瞳、好きだよ
君の髪、好きだよ
君の指先、好きだよ
君の肌、好きだよ
そして君の唇、好きだよ
何度唇を重ねたことだろう
好きで好きで、一番きれいな君を手に入れた
こうしてリビングの角に置いてある、
大きな冷凍庫に
(No.157より続く)
No.159
桜
桜が満開の中、満月の夜に死にたいと言った西行さん。桜の樹の下には死体が眠っていると、物騒なことを言った安吾さん。
でも、実際に、両脇が桜並木になっている道を満開の時に歩けば、どちらにも非常に共感する。それだけ、桜の花には妖しい魅力がある。
花びら5枚に、シベが付いている、樹に咲く花もたくさんある。花としての基本は他の花と違わないのに、何がそんなに魅力的なのか?
薄いピンクの花びらで、たくさんの花が集まって咲いているのがなにしろ美しいし、数日の間にほぼ咲き揃い、さらに数日後悲しいぐらいはらはらと花びらが散り、そしておしまい。潔い感じがするのもある。
でも妖しい要素は?夜見る桜だと、小さな灯りにぼぉっと浮かび上がり、そうとう妖しい。夜桜という表現だって、他の花には無い。夜牡丹とか、夜ツツジなどと呼ばない。
このあたりが、西行さんや安吾さんの心を動かし(もちろん他にもたくさん、取り上げられてます)、私たちの心を惹きつけてやまないのだろう。
No.158
君と
一人暮らしだけど、大きな冷凍庫を買った。 冷蔵庫は1つあるんだが、最近の家電は省エネだしあまり開閉しなきゃ、そんなに電気代かからないぞ。俺は嬉しくなって口笛を吹いた。
さて、何を入れようかな。いや、もう決まってるんだ。君だよ。
今は押し入れで横たわっている君を、この冷凍庫に入れる。ドアを開ければ、いつでも君に会える。
これからはずっと、君と一緒だよ。
No.157