記憶
私には、2歳の時の記憶がある。
まさかと思って、大きくなってから両親に確認したら、その通りだった。
暮らしていた家にL字型に土間があったこと。そこから靴を脱いで部屋に入ったこと。昔の家だから、土間をぐるりと囲むのはガタピシいうガラス戸だったこと。2部屋あって、親子3人川の字で寝ていた奥の部屋の、その奥にトイレがあったこと。家の前に竹藪があって、家の横は簡単な竹垣だが、脇は崖だったこと。反対側にあと数軒、同じ向きに戸建てが並んでいたこと。竹垣に小さなアマガエルがいたこと。土間から続く居間には囲炉裏があって、そこでニンニクやネギを焼いて、両親が美味しそうに食べていたこと。
どうしてそんなに覚えているのだろう?その後引っ越した家の記憶は、官舎だったが、隣の家の人がうちを通らないとトイレに行けない作りで、小さな引き戸を開けて入ってきたおばさんが、いつも肩身が狭そうだったことぐらい。
うちの両親は毒親だったと、前にも何度か書いている。だが、両親に暴言を吐かれたり殴られた記憶が、その頃は1つも無いのだ。
さすがに2歳の私は、不細工でも可愛い盛りだったろうし、成績も進路も健康も関係なく、思い通りにならなくて苛立つこともなかったのだろう。加えて、まだ甘い新婚の延長だった。
実は、その後父はさんざん浮気したので、ケンカも絶えなく、夫婦仲が非常に悪かったが、そのストレスが夫婦双方、そして私に向けられたのではないか?
つまりは、私にとって最高に幸せだった時期だから、幸せな記憶が強烈に残っているのだ。
No.148
もう二度と
高校生の時、先輩が「ちょっと紹介したい友だちがいるから、一緒に来い」と言う。
まぁオレも特に予定が無かったし、軽い気持ちで着いて行った。
街なかの一戸建てで、春先の爽やかな風が通る家だった。きれいに片付けられていて生活感が無い。
「岡田さん、見込みのある奴を連れてきました」先輩が、奥の部屋に居た20代の男性に声をかけた。
「おう!君はいくつ?」
真っ直ぐな目をした青年だった。じっと見つめられて、オレは少し動揺した。
「じゅ、17歳になったところです」
「そうか若いな。この窓から見える景色をどう思う?」背後の窓を指して岡田さんは言う。
「どう・・・って、普通の景色だと思います」
窓の外は、背の低い植え込みがあり、その向こうを、時々車が通り過ぎるだけだった。
「そうだね。この普通の景色を、普通に維持するのは意外にたいへんなんだよ」
「あ、はい」
「まぁ、ゆっくり過ごしてくれ」
ゆっくり過ごせと言われても、生活感の無い家は、居心地が悪かった。先輩は岡田さんと話している。それで、許可を得て他の部屋にも行ってみたが、他にあと3人居て、それぞれ壁に寄りかかったり、窓から外を見ていた。
いくつかある部屋の1つに小冊子が置いてあった。退屈だし手にとって見てみる。そこには、ニュースで話題になっている新興宗教の教祖の名前があった。
オレは、先輩と岡田さんの居る部屋に行き、「家族と約束していたのを忘れていました。帰ります」「うん、気を付けてな」先輩は岡田さんと熱心に話しているせいか、妙にあっさりしていた。
もう二度と、あの家には近寄ってはならない!本能的に感じていた。
誰も追ってこないのに、オレは小走りになっていた。
No.147
雲り
曇り空は、なんだか気持ちまでどんよりする。その中でも、花曇りは素敵だけど肌寒い感じ。特に、黄砂で世の中が曇っているのは良くない。黒い門扉に白っぽいモノがびっしり乗っている時がある。ここにこんなに積もるほど、空中に漂っているんだ!と思うと、良い気はしない。
曇りもたまには良いこともある。日焼け止めを塗り忘れてすっぴんで出かけたときとかね。曇りでも紫外線は届くそうだけど、晴れよりはマシよ!
因みに、気象庁によると「雲の量が1割以下(0~1割)の状態を「快晴」、2割から8割の状態を「晴れ」、9割以上の状態を「曇り」といいます」とのこと。
お空の8割雲があっても晴れなんですね。
No.146
bye bye
お母さんは重い病気になって、キトク、っていうの?そう言われて、みんなが集まった病室で、最期、「bye bye」と言って天に昇って行った。にっこり笑ってた。
あれは何だったの?「あなたたち、今までありがとう」とか「私が死んでも、元気で生きるのよ」とか、普通言い残すと思ってた。
だから私たちは「お母さん!」って涙ながらに絶叫する用意してたのに、中学生の私と、高校に入ったばかりのお兄ちゃんは、密かにズッコケた。
あっけなかった。お医者さんが「6時37分でした」ってドラマみたいに言っても信じられなくて、「お父さん、本当なの?本当にお母さん死んじゃったの?」って聞いちゃった。
お父さんが重く頷いて、それで本当だったんだ、と実感した。
でもさぁ「bye bye」ってさぁ、そんなのある?可笑しくて涙出ちゃった。
No.145
君と見た景色
もしもニ十年後
まだ君と一緒に居たら
今、君と見た景色を思い出して懐かしもう
もしも二十年後
君と別れてしまっていたら
今、君と見た景色を思い出して涙しよう
もしも二十年後
別な人と幸せだったら
今、君と見た景色のことは黙って
新しい思い出を重ねよう
いずれにしても
今、君と見た景色は
僕の大切な思い出だよ
No.144